河童のお弟子 泉鏡花 柳田國男 芥川龍之介
このタイトルは、伝染する。
まず、「河童のお弟子」。何が「お」なのか? 「弟子」じゃないわけは?
「柳花叢書」? 花柳界の話か? 色町に出現した河童のこと?
3人の著者が並ぶ。泉鏡花 柳田國男 芥川龍之介。加えて、編に東雅夫とあったので、すべてのみ込めた。
「柳花叢書」とは、柳田國男と泉鏡花で柳花。ちくま文庫が2人のアンソロジーを叢書にして発刊する。おばけ好きから一人は民俗学へ、一人は文学へ。
それに芥川龍之介が加われば、おばけ部門の内、河童でくくれる。と編者は企画した。
実は3人は同時代人なのだ。
まず柳田國男が、河童を書いた「山島民譚集」を出す。
それに刺激されてか、芥川龍之介は「河童」を出し、鏡花は「河伯令嬢」を出す。國男は、2人が「河童のお弟子」だといって笑った。
時は昭和2年7月24日未明、龍之介は毒をあおる。
「河童」 → 上高地 → 夏の服毒自殺。
最初、僕は「『河童のお弟子』ねぇ」と、声に出せなくて眼で読んだ。可笑しい。でも、卒然と遂げる龍之介は悲痛だ。
小説好きの友だちに見せたら、僕と同じ表情になった。
伝染する。
シャルフベック 芸大美術館
ミノリさんは、来月マイアミとニューヨークへ行くらしい。
ミノリさんは、女友だちKの友だちだ。今まで、数回会ってる。
ミノリさんは還暦前から絵に本気になってる。還暦過ぎても毎日キャンバスに向かっている。音楽でも文章でも、還暦後デビューの前例はある。
応援している。是非、実現したい。
上野の芸大美術館「ヘレン・シャルフベック展」で、ミノリさんと久々に会う。誘われなければ、見に行かなかった展覧会だ。
チラシの自画像を見て、「マリー・ローランサンの影響」と読んだ。女おんなした絵で「ちょっと苦手」と予想した。
ローランサンの影響もあったが、他にもホイッスラーやグレコの影響を受けた時代もあった。永いこと画家をやってりゃ、変遷はある。
アールデコという時流に合わせた絵もあった。
やはりチラシの絵だけじゃ判断できないな。
晩年の自画像は、書家の篠田桃紅さん似で可笑しかった。
画家は名画の模写をトレーニングでよくやる。でも「模写を出品する展覧会を初めて見た」と言うと、ミノリさんも「あたしも初めて」と応える。
女友だちKが「ミノリは山の手育ちなの」と出自コメント。
「そうなの?」と返事してひらめいた曲が、とっさに思い出せない。
ニューヨークのダウンタウン・ボーイが、アップタウン・ガールに出会い、しどろもどろになる可愛い曲だ。
古書と古物 書肆逆光
「なんていう人なんですか?」
「いのうえようこ、さんです。普通に『井上』と、ようは太『陽』の陽子さん。本の装幀もやってますよ」。
書肆(しょし)逆光でのやりとり。
写真の手前、なにやら箱に入っている紙もの詰め合わせ。言いようがないから、ひとまずペーパークラフト。
井上陽子さんの体質は、たぶん箱好き、紙好き、工作好き、印刷好き、包装好き、文具好き少女と見た。
大人になっても適性に忠実。美大に入学、卒業しても自分を曲げないで作ったのが、このペーパークラフトでしょ。
いいよなぁ。
それを仕入れて売る書肆逆光の店主も、見上げた根性。
訊けば、前は新刊書店員だったらしい。
ビニールコーティングされたピッカピカ本に疲れたのか、古書店を去年開業。合わせて古物を置く「俺の店」。
「江戸東京実見画録」岩波文庫刊を買う。
文庫の古本だから、本日の売り上げに全然貢献せず。読み終わったら、また行こっと。
キッチンカーの移動販売 烏川清治
夏 → フェス = 何か買い食いしたい。
これが一般人。
夏 → フェス = 一稼ぎできるのでは。
一般人ながら、会場に集まったキッチンカーを見て、こう思ったことはないだろうか? 小銭を稼いで、明日はどこの旅の空。
風来坊が行き詰まるのは、まず日銭だからね。
「キッチンカーの移動販売」旭屋出版刊を読む。あまかった。流れ者、普通に生きていけない人間の身すぎ世すぎロマンが消し飛ぶ。
事業解説本だった。動機・商品・クルマ・場所・人・販促・役割を説明する。
とりわけ場所。
キッチンカーを見かけるのはイベント会場だ。
海山川やスタジアム。キッチリ区分けされてる。都市のアリーナや広場も、すべて地権者がいる。曖昧さが無い。
国際フォーラムの屋台村は、東京都のショバか? 都は「町づくり、賑わいづくり」にキッチンカーを誘う。
そうじゃないんだよ。
もっと自然に、普段に、なにげに、うらぶれて、朝昼晩食じゃない食の風景にキッチンカーがあればいいというのは夢か。
著者の烏川清治さんは、晴海埠頭でホットドックを売っていた父親を10歳から手伝っていたというから、家業でしょう。
よほど商売の水が合っていたのか18歳で独立。「自分に合った仕事」で悩む大学生と親を尻目に、みごとな事業承継。
活版 中村活字
「今度、こういうのやるので」と店内でチラシをもらった。
7月10・11・12日に、神保町三井ビル1Fエントランスと書泉グランデ7F特設会場で、活版祭り。
KAPPAN TOKYO 2015
紙フェチやカードフェチは大喜び。印刷マニア、本好きも活版・活字の現場を見たがる。
僕は何回も見ているので、今回は不参加。
千代田区が後援した熱の入れよう。協力には、チラシをくれた(株)中村活字の他、印刷会社や用紙会社のクレジットが並ぶ。
店内の壁という壁は、ポイント別に活版が収納された棚だ。ちょっと引き出して眼を近づける。
隣、隣と移る。結果、店内の奥に体は移動する。
活字の鋳造現場を初めて見た。思ったより素早く作られる。横に並んで、押し出されるように排出する。20本くらい完成すると専用の板ですくい取り、箱に収める。
現在でも活字を製造しているのは、理解していた。でもここは
〒104−0061 東京都中央区銀座2−13−7だよ。固定資産税を払えるのか。
時代がここまでくると、我が社の繁栄より業界互助だ。
大正6年創業で、三代目・四代目が働く
〒162−0806 東京都新宿区榎町75 (有)佐々木活字店
も紹介してくれた。
店内でくれたチラシを刷った印刷機は、Vandercookとクレジットされている。
なんだかモダン。
ぼくは思い出す ジョルジュ・ペレック
水声社は、カバーから「フィクションの楽しみ」とアピールする。
「ぼくは思い出す」は、1920年代の写真家、ウジェーヌ・アジェのセーヌ川写真で誘う。
「楽しみ」というより、「試み」の感あり。
ジョルジュ・ペレックは、ツイッターのような短文を480本並べた。
すべての冒頭は「ぼくは思い出す」で、あとに続くのは映画・音楽・演劇などのエンタメが半分以上。他に街角の景色、学校、遊び、文学。
歴史というのは政治史・戦争史で語られることが多いが、個人メモリーに毛ほども影響なし。
70年代のフランス人の回想は極私的だから、言われっぱなしだとつらいよ。
フランスでも昔の話が通じない読者のために、注釈本が出た。日本でなら、なおさら。
訳者の酒詰治男さんが、本文以上のボリュームで注釈を付けていたので助かった。風前のメモのような軽さがいい。
・セルジュ・ゲンズブールには「ポルト・デ・リラ駅の切符切り」という歌がある。
・「まじめな雌牛」は、グロジャン社発売のプロセス・チーズの商品名。「笑う雌牛」社に訴えられて敗訴。
・新しい波ヌーベル・ヴァーグには2派あり。ゴダールやトリュフォーは右岸派。ジャック・ドゥミやアニエス・ヴァルダは左岸派。
・ナイロンNylonは、デュポン社開発の人口繊維。パラシュート用の絹の代替品だったことから、「お前たちの負けだ、老いぼれ日本人どもめ」の頭文字をとって命名したとの説あり。
Now You Lose, Old Nippons!
・ミジャヌー・バルドー。ブリジットの5歳年下の妹。映画界入りしたが、嫌気がさして引退。
怪談牡丹燈籠 歌舞伎座
歌舞伎座の一幕見で「怪談 牡丹燈籠」を見る。
もともと、三遊亭円朝の口演記録本を読んでない。落語だけ。
円生百席CDなら4枚。
・お露と新三郎
・御札はがし
・栗橋宿・おみね殺し
・栗橋宿・関口屋強請
現役の桂歌丸CDなら、玉置宏さんとの対談を含めて5枚。同じようなタイトル・ストーリーながら、とりあげる箇所が違う。
それくらい原話は精緻なんだろう。
で、歌舞伎はどうだったか。
全2幕。場の名前が落語とは違っていたけど、ほぼCDで語っている範囲だった。
お峰役の玉三郎がプロデュースしたという。世話女房のお峰、玉さまがこんなにコミカル演技をやるのが意外だった。
あの玉さまが。「芝居・戯曲とは」が理解できた。かたいこと言ったら、舞台にならないのだ。観客をくすぐらないと。
市川海老蔵、海老さまは馬子の久蔵役で登場。マヌケぶりがいまいち。
あたらしい歌舞伎座、初見参。1年に1回は来たい。