巨匠は、人生の年輪を肯定する
九段にあるイタリア文化会館の地下階は、ホールになっています。有料・無料のイタリア関連イベントが開かれます。
そのロビーに掲げてあった、フェリーチェ・ベアトさんのポートレイト。「こういう顔してたんだ。当時の日本人から、『異人さん』と呼ばれていたんでしょうね」と、しばし見入る。
1863年来日。ペリー来航から10年、明治維新は5年後。
僕は、ニューヨークで大量にガラスのフィルムを買いました。まとまると、とてつもなく重い。
以来、古写真に興味が湧いて、それが町の残影を追いかける遊びにつながり、今日にいたる。
ベアトさんは、ベニス生まれ。クリミア戦争・インド大反乱・第二次アヘン戦争撮影を経て、日本にいたる。
幕末から明治の日本を撮影して大いに稼ぎましたが、好事魔多し。おとなしくシャッターを押していりゃいいのに、銀の相場に手を出して全財産を失い、離日。
エジプトに渡ってスフィンクスなどを撮り、ここでも、結構知られた写真を残しました。
3月6日から、ベアトさんのコレクションが恵比寿の写真美術館で公開されているのを知りました。
写真の現像・焼き付けにも、歴史あり。
当時は、ニワトリの玉子を使ってプリントしていた。鶏卵紙。そのワークショップも開催されるというから、こりゃ行かないと。
これは、家の前の町内会の掲示板。
普段は、「○○さんご逝去、享年89歳」などという訃報が張り出されています。
そこに、写真家・荒木経惟兄さんの展覧会チラシが張り出されていました。思うに、個人のギャラリーならいざ知らず、公共の会場で展覧会ができる人って、兄さんの他にいるでしょうか。
30代の写真家が、新進作家として作品が展示されることはあります。一方、すでに鬼籍に入られた大御所の展覧会もあります。
つまり、彼のポジションは、生きてる巨匠ということ。
毎日の暮らしの写真を、御上が認めた。価値ありげに見えない写真を大事と踏んだ。しぶしぶかどうかは、脇に置いといて。
難しい話は、さらに脇に置いといて、人間を撮る難しさを最近撮り始めたので実感してます。
人は、手足があるので動くんです。黙って。
写真は、背景との組み合わせですから、本人が5秒後・10秒後、どんな行動をするか予測しなければなりません。
撮れるのは一瞬。実に、はかない。
はかなさを、50年ほど追い続けると、別格の人格になれるかもしれない。
宮本三郎記念美術館。自由が丘駅の近くで、初訪問しました。「荒木経惟 人・街」展は、3月20日までやってます。
1990年代までの写真なので、どれも見慣れた写真ばかり。
去年10月からの1期は、「さっちんとマー坊」など。
今年1月からの2期は、「東京日和」「冬へ」など。
こちらは、全点ゼラチン・シルバー・プリント。普段の暮らしが高級に見えちゃう。
開場でチラシを入手。去年11月にイベントをやってました。本人、川上未映子さん、坂本弘道さん登場。
見たかったぁ、残念。
チェロ奏者の坂本弘道さんって、どんな人? You Tubeはこんな時に便利。こんな人でした。
住宅街にある、小振りの美術館。
いわゆるギョーカイ人があまり来館しないであろう空気がいいよね。
家族写真のアルバムをめくるように、写真を眺める中年夫婦。2人は、こんなひと時をすごして、年輪をつくる。
写真の見られ方、巨匠にとっても本望でしょう。