島と海流が天啓になった作家
「調書」は、1966年に新潮社から出ていたんだ。「大洪水」は、1969年に河出書房新社から。2008年にノーベル文学賞受賞。
配布されたレジュメを一通り見る。
南フランス・ニース生まれ。先祖は、インド洋のモーリシャス島に住んでいた。
ル・クレジオが「文学創造における記憶と想像力」と題して講演会をやった。大きい人、静かな人、海を見てる人。
「黄金探索者」「ロドリゲス島への旅」そして、現在翻訳された「隔離の島」筑摩書房刊の三部作をめぐる。情報だけなら、やりすごす。本人を前にすると、読みたくなる。
モーリシャス島にある、堂々としたコロニアル風建築がスライドに映る。「祖先の家です」。すでに、クレジオ家のものではない。「それは、いいことです」と言う。
さとうきび農家や労働者や漁民への、愛惜が言わせる。クーリーへのオマージュ。疫病が蔓延し、住民が隔離された記憶を、小説に残す。
「黄金探索者」は、おじいさんの話。生前に会ったことはない。おばあさんが孫に語るには「お前は、おじいさんそっくりだ」と。それを「ワクチンを打たれたようだった」と小説家は語る。
彼のたたずまいを見ていると、若い頃から変わってないんじゃないか、と想像した。
「若さっていうのは、同じ過ちを繰り返すことです」。
馴れたことをやれば、失敗はしない。それは老いるということ。失敗をするのは、経験がないから。