リクエストありませんか?

「ここではない、どこか」人生にあこがれるのは、北杜夫兄さんの「どくとるマンボウ航海記」を読んでからと、ハッキリ記憶しています。

兄さんは、医学部を卒業してボーっとしていると、そこに一航海だけの船医の話が舞い込んできて、渡りに船とばかり、船上の人になる。「航海記」は、その時のエッセイでした。



夏を迎え、クルーズの予約を募集する広告を見たので、船を思い出すんですから僕も単純。

客船といえば誰もが、イコール優雅と連想します。カレンダー無用の日々と、夜は夜でデラックスなディナーというふうに。ところが、

ここに一人の落語家が北杜夫兄さん同様に、船会社から呼ばれたと思ってください。なにしろ、乗客の大半は高齢者ですから、夜の娯楽にふさわしいだろうというヨミ。ところが、

高齢者は早寝早起きなんです。晩ご飯の後は、そこそこに自室に引き上げてしまう。すると、残るのは誰?

ガラーンとしたメインフロアに、落語家一人とフィリピンバンドの面々。

「リクエストありませんか?」と声をかけられ「●×●×」と応える。終わると「リクエストありませんか?」で、また「△□△□」と、しかたなく応える。落語の師匠、ひたひたと苦しくなってくる。

師匠、落ち着こうとバーに逃げたら、そこに追いかけるように面々が登場・・・。僕の大好きな柳家権太楼師匠のマクラでした。