色男は「遊ぶ金が欲しい」のだ

予定が苦手ですから、映画も上映時間は調べません。おかげで、思わぬ人と出会いもある。切符を買って、上映時間まで待つこと約2時間。窓口でもたもたしていると、おばあちゃんが声を掛けてきました。

「見ましたけど、いいですよぉ」。

訊けば彼女は、この秋から始まる映画の前売り券を買いに来たとのこと。歌舞伎、人形浄瑠璃、能ばかりかオペラも守備範囲のカルチャーばあちゃん。

「お兄さんの松本幸四郎さんより先に、中村吉右衛門さんが、人間国宝になりましたね?」

「家系ですもの」

と、何でも教えてくれる。病院の定期検診の予約がなければ、彼女は上映時間過ぎてもレクチャーしていたかもしれません。



僕がこれから見るのは、片岡仁左衛門丈のシネマ歌舞伎女殺油地獄」。

禍々しいタイトルでしょ。「おんなごろし、あぶらのじごく」と読みます。歌舞伎の演目はどれも、「こんがらがった人間模様」がそのままんまネットリ字面に表れているので好きです。

断捨離でスッキリ爽やかに整理しないところが、いい。

強盗・殺人の動機に、よく出て来る「遊ぶ金欲しさ」。かねがね、働く動機も「遊ぶ金欲しさ」だと思っているので、TVでアナウンサーが言うたびに「説明になってない」
とつぶやいているのですが。

さて、その「女殺」は、イケメンながら、ダメンズの物語です。気が弱い放蕩児・どら息子。ますます、いいでしょ? 

色里に通い、彼女にいれあげ、借金をこしらえ、家を勘当される。返済を迫られ、途方に暮れ呆然とする与兵衛。あてなく気心の知れた女友達の家へ向かう。

映画の看板は、花道の仁左衛門丈。紅涙をしぼる、とは、このこと。婦女ファンに100万ボルトが通電します。



借金を申し込まれた女友達、豊嶋屋の女房・お吉役は、息子の片岡孝太郎さん。いや、かわいい。

「友情と生活が戦えば、生活が勝つ」ので、女房・お吉は、借金を断る。というのが、一般的な解釈です。

けれども、僕は誤読が大好き。

お吉は、与兵衛に姉のような情愛があるのでしょう。恋人のような愛情もあるかもしれない。「そろそろ甘えた暮らしをやめて、自立してほしい」と。

その後の阿鼻叫喚(あびきゅうかん)が、本舞台の見せ場。悪の華がネットリ咲きます。湿りっけ、たっぷり。
西洋の乾いた悪とは、違います。

窓口で出会ったおばあちゃん、74歳。また、どこかで会うかもしれない。教えて欲しい。



★それでは、「音だっち」ツネツネから。確かにすばらしい。

・本日のおすすめです。sourの日々の音色です。ミュージックビデオが秀逸です。
http://www.youtube.com/watch?v=WfBlUQguvyw