検校出世は4官16階73刻(きざみ)

目黒図書館からリサイクル本で入手した、井上ひさしさんの「藪原検校(やぶはらけんぎょう)」を清里で読んでました。

数冊持ち込んだ本で、最後まで読めたのはこれだけ。

他の本は、トレッキングなど未読テーマで、しかも大部のものなので、なかなか進みません。

この本は「検校」ものですから、なじみがありました。

井上さんの本は、自身の興味を徹底的に勉強してから「土着芸」にするので、どれも日本人のリズム感があります。

彼は少年時代、東北地方を転々とした。

すると「座頭池」「琵琶ヶ淵」「盲沼」といった名前の、小さいが暗緑色の陰気な沼や池があった。

と始まる物語。

江戸時代、盲目の人が座頭から勾当(こうとう)・別当・検校の4官(更に細かく16階、73刻と分けられる)へ出世するには、金のチカラが働いた。

これが作家の創作意欲をかき立てる。

僕が検校という言葉を最初に知ったのは「不知火検校(しらぬいけんぎょう)」。ご存知、映画では勝新太郎さんの出世作座頭市シリーズのプロトタイプ。宇野信夫さんは講談からインスパイアされて、これを作ったらしい。

京橋の銀座セゾン劇場で公演があった時は、ポスターの悪漢美に釘付けになりました。

そして、「藪原検校」は井上ひさしさん。

ともに希代のピカレスクを描いて、誰もが感じているヨノナカの嘘くささをあぶり出す。

閨閥門閥、学閥がない憂き世を渡るには、泉のごとく出て来る悪知恵と才気。

でも、愛嬌がある。「ひょっこりひょうたん島」の丸み。やはり喜劇作家なんでしょう。

これはどうも、次に載っていた「金壺親父恋達引(かなつぼおやじこいのたてひき)」の影響もあります。

モリエール守銭奴」による、と副題がある戯曲。僕はプーク人形劇場で見ました。これも印象が丸かった。



話は検校に戻って。

塙保己一はなわほきいち)検校。学校で習った「群書類従」の編集者。僕がメディアの仕事に興味を覚えた「種火」のような国学者です。

どうして盲目の人が、群書を類従することができるのか。大量の言葉を、声の音で記憶するって高校時代から謎でしたし、今も想像できません。

渋谷の国学院大学の隣に「温故学会」という古いビルがあるのをご存知ですか?

講談が無料で聴ける会があり、訪ねたらビルは塙保己一史料館でもあったのです。

すると、ありました。「群書類従」を刷った江戸時代の版木が収蔵されている驚きと不思議。スチールの棚にびっしり。

善悪とりまぜた検校への関心は、これで決定された一席。お後がよろしいようで。

★それでは「音だっち」ツネツネから。昨日、地下鉄の「九段下」で、白くて長い杖を持った盲人とすれちがいました。彼も耳が鋭いんでしょうね、きっと。

・本日のおすすめ。やくしまるえつこメトロオーケストラ
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