物事に、見落としがないように

10月31日で、「第24回東京国際映画祭」で上映された「ガザを飛ぶブタ」を見逃した話をしました。

上映1時間前に行っても、すでに切符は売り切れていた悔しい思い。第24回をまとめた講評を読んでいたら「運営に難あり」と出ていて、「そうだ、そうだ」と、一般市民は声を荒げて言っちゃうよ。

「見るべき映画が見られない記者や評論家から、ため息が漏れる」ともある。

カンヌ、ベネチア、ベルリンを目指すといいますが、すでに釜山国際映画祭にも大きく水をあけられていますから、運営者も「そこんとこ夜露死苦」がんばらないとね。

この映画祭ではワイズマン監督の「クレージー・ホース」も上映されていました。

かつて「パリ・オペラ座のすべて」を見た時に、ものごとを成立させるすべての人を見届ける、彼の視野の広さに「とても忍耐力のある監督だな」と興味を持ちました。

コツコツ、静かに、確実に作業をする人。

11月25日まで、渋谷ユーロスペースでやっているFREDERICK WISEMAN RETROSPECTIVEは、1967年の「チチカット・フォリーズ」から、近作の「ボクシング・ジム」まで36作品を一挙に上映しています。

どうせなら、と監督が登場する日を選んで切符を買いました。1971年封切りの「基礎訓練」。アメリカ陸軍が新兵を9週間にわたって訓練するドキュメンタリー。

舞台あいさつは10分程度。とはいえ、やはり、本人を見ておくのは重要です。どういう人なのかは、風貌や喋り方や着ているものでわかりますから。

終始、うつむき加減でボソボソ語る彼。

「『フルメタル・ジャケット』を撮るために、キューブリックが私の『基礎訓練』を借りに来て、1年間返してもらえませんでした」と裏話を披露。

商業作品監督は、忙し過ぎて軍を取材する時間が無いのでしょうと、ユーモアのあるスピーチをする彼のあきらめ顔は、直近で読んだ記事に通じるものがありました。



アメリカで休刊した新聞は212紙。20年前、全米で6万人いた新聞記者は、現在4万人。

整理部・文化部が削られ、教育・裁判・環境・農業の記者も減らされる。

「一つ取材します。写真と動画を撮り、ネットに速報を送り、新聞原稿を書き、記者ブログを更新し、フェイスブックに書き、ツイッターにつぶやく」と語る、スティーブン・ワルドマン元記者。

これだけ忙しいと、取材空白の組織や地域や分野ができるのは、あたりまえ。

すると、何が起きるか?

役人は勝手に給料を上げ、選挙の投票率は下がり、裁判官は暴言を吐き、医者は医療ミスをしても平気。

これは、ネット社会を迎えてコミュニティの報道需要がどのように満たされているかの調査結果。

「市の決算に不正がないかどうか洗ってみよう」と思い立つのは、世の中で記者くらい。それが減っていく上に、残っても超多忙。



ワイズマン監督は、監視者の姿勢で映画を撮っているのではありません。もちろん、組織の広報マンでもありません。

刑務所、高校、警察、病院、僧院、軍隊、研究所、福祉センター、工場、モデルマネージメント会社、盲学校、ミサイル管制センター、動物園、劇団、議会、職業訓練校。

組織の人間、組織に出入りする人間、組織に影響される人間を描きます。

松本清張さんのようで、山本周五郎さんのようで、立花隆さんのようで、佐野真一さんのようにも感じた10分の舞台あいさつでした。

映画を見終わる。彼の慧眼を見習いたいよねぇ。

★それでは「音だっち」ツネツネから。ワイズマン監督がアイルランドの農協のドキュメンタリーを作ったなら、こういう曲を入れてほしい。ひたってます。

・本日のおすすめは、Sigur Rosです。このバンドもボクは大・大・大好きです。

・寒くなってくると聴きたくなります。幻想的で切なくて、どこか神々しくもあります。アイルランドのバンドで、シガーロスとは「勝利の薔薇」の意だそうです。

・ぜひ薪をくべながら、ウィスキーとともに…あ、ウィスキーはダメですね。じゃあなんでしょうか、コーヒーですかね。コーヒーでも飲みながらひたってください。

[http://www.youtube.com/watch?v=8LeQN249Jqw&feature=related:title=http://www.youtube.com/watch?v=8LeQN249Jqw&feature=related
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