東新宿漂流のかいがあった

「この曲を、東北の被災者の方々に捧げます。演奏後の拍手は、ご遠慮ください」とアナウンスで始まった丸の内交響楽団の演奏会。

プログラムを見る。バーバー「弦楽のためのアダージョ」。鎮魂の曲でした。

地上に広がる風景を前に、誰も無口になる。自然災害でも戦争でも。なんということが起きたのか。

休憩をはさんで、カバレフスキー道化師」。茶目っ気のある山口昌男先生を思い出す。

こちらは、楽しい。

教授は文化人類学者として、世界を歩きました。学問の道程は、たぶんこんな曲想ではなかったでしょうか、と想像しながら聴きました。

道化をよく描く教授。タイトルって、僕のようなシロウトにはひっかかりができるから助かる。お愛想がないでしょ、交響曲第○番なんて。

アンコールは、エルガーの「威風堂々」。堪能しました。



丸の内交響楽団が、なぜ新宿文化センターで演奏したのか? 丸の内にもたくさんホールがあるでしょうに、とピント外れなことを邪推しながら、外に出て地図を見る。

新宿文化センターは、伊勢丹前の明治通りを北に向かって歩き、右折するとあります。地下鉄・東新宿駅が最寄り駅。

知らなかったなぁ。未体験ゾーンを夜道散歩。

するとありましたよ、クラシックなワーゲンのビートル。おもわず立ち止まる。水銀灯に映える、時代色の緑色を眺める。

「1975年製です」と、オーナーのお姉さん登場。「マフラーは、友人から譲り受けた時に、すでに付いてました」と、しばしビートル談義。

そこから話はどんどん拡散して、彼女のプロフィールが浮かぶ。

名前は「すなほ」さん。4オクターブが出るものまねタレントでした。年5〜6回は島根県を訪ね、難病支援のコンサートをする「遣島使」でもある。

一緒にいたのは、ロックバンドのボーカルをやる「トウスケ」兄さん。渋谷・下北沢を拠点にする「ワイトロックベイビーズ」のリーダー。

一緒にボランティア活動中というから、ひょんな場所でのひょんな漂流は、ひょんな出会いになる。おもしろいねぇ。

バンドの練習って、1回見てみたいよ。



「ちょっと撮影していいですか?」と、読み終わった本を出す。藤原新也著「書行無常」。彼の最新刊。

写真家で文章家。旅する哲学者。今回は、週1回のペースで「事件現場」に赴いて、その場で感じたことを書にする「行(ぎょう)」をまとめた本。

藤原さんは、世の中で起きた事件一つ一つを、ないがしろにしません。情報として捉えません。最大公約数として整えない。

反対です。最小公倍数として、事件が発信する「いたたまれない日本」を書き、撮る。正鵠を射る言葉を造り、写真の意味を増幅していましたが、今回は、加えて直感を書にしました。

力がみなぎっています。感覚が摩滅してません。

東北被災地に立った2011年3月19日、18時17分の彼のツイッター。夜の風景を眺めて。

「満月が憎らし」。

同じく21時04分。

「これだけの破壊は広島原爆何十発分にあたるのだろう。いや何百発か」。