無口になりたい時に木挽き
住んでいる世田谷区も、もっぱら田園都市線沿線にしかなじみがありませんでした。
北にほぼ並行して走っている小田急線。水泳教室に通うようになって、やっと成城学園付近が身近かになりました。
隣は狛江市、多摩川を渡れば神奈川県というディープ東京です。「次太夫堀公園」に出掛けました。
地番は喜多見。世田谷区は、かつて都心近郊として田畑が多かったと聞いてましたが、やっと、元祖世田谷の風景を歩いている気分。「ファミリー農園」なんていう看板もあるし。
「次太夫堀公園」って、読めます? 散歩しながら迷いに迷い、読めないので、チラシを指さして「ここへ行くにはどう行けば?」と、背丈190cmの高校生を見上げて訊
く。
「じだゆうぼり」ですって。なんか、居合いの演舞が始まりそうな気配。途中まで道案内してもらい、別れる。
「僕の家は、『うなね』です」「どういう字を書くんです?」
「宇宙のう、奈良のな、根っこのね」「宇奈根?」
「ちょっと行けば二子玉川です」「広いねぇ、東京は」。
やっとたどり着いた「次太夫堀公園」は民家が集合した公園でした。尺八の音色がとどく。
やってました、4人の演奏会。畳におかれたチラシを拝見。財力を誇ったであろう、広々した旧安藤家の十二畳座敷で聴く尺八。彼らとの距離3m。
背景に、民家園の内庭。茅葺きの軒下から、柿が50本ほど連なって下がる。もう、絵に描いた秋の空気。
「尺八を専門にやっている人が作曲したのが、本曲。対して、筝曲は検校さんが他の楽器との合奏を目的に作曲しました」。
演奏の合間の質問に、簡潔な答え。
日頃の稽古の発表は、恬淡と流れる。尺八ほど、息づかいを感じさせる楽器はありませんね。冴え冴え、絶え絶えする音の描写。
哀れさだけではありません。祝いの席で吹かれた曲「かざしの雪」もありました。
加賀藩前田家、三歳の姫君が前髪を伸ばす儀式(七五三)の際、白粉をつけて祝うことから、それを雪に喩えた曲が「かざしの雪」(ここんとこ、もちろんチラシの受け売り)。
「今を蕾の花ざくら 花のかつらや玉葛」。読みながら聴いていると、音がいっそう奇麗です。
尺八といえば、藤原道山という人の名前も最近目にしますねぇ。
川に晒された木綿布のような気分になって、園内を流す。
「木挽きの会」の旗あり。
写真で見たことがある半円形ののこぎり。初めて実物を見ました。しかも実際に3mほどの長さの原木を水平に置いて、引いている人。
「前挽大鋸(まえびきおが)といいます。大鋸から出るのが『おがくず』」。
この製材法をまんじりともせず、見入る。
?1 どうすれば、刃を水平に維持して進めるのか。
?2 刃の長さより太い直径の原木は、どうやって切断するのか。
?3 刃先と刃元で、角度が狂わないのか。
?4 長い原木に、刃が噛むことはないのか。
?5 直径1mの原木を次々スライスしていって、だんだん引く姿勢がつらくならないのか?
一つ一つ実演して答えてもらいました。
無口になりたい気分の時に、この木挽きはいいかもしれない。ひたすら腕を動かし、長い時間をかけて全エネルギーを最後の一瞬に賭ける。
やりたくなってきました。工作関連作業も、木挽きという愚直なジャンルがあったんですねぇ。
「入会しても、長続きする人はあまりいません」と、早くも見透かされてます。
あたりでは、会のメンバーたちが11月23日にある「民家園手作り市」に出展する品を製作中。
そこで、最後の疑問。そもそも、この原木はどこから集めて来たのですか?
「道路や公園を整備した時に伐採したものです」。
★それでは「音だっち」ツネツネから。同じ手作り市も、オランダならこういう曲が流れるのでしょうか。
・本日のおすすめ。オランダから。Benny Sings。