時々、図書館も怖くなりにけり

「あなたがお借りになっている図書資料は、未だに返却されていません」で始まるハガキを読んでます。

「返却期限から3週間を過ぎると、条例施行規則第10条に基づき、館外利用をお断りすることになります」と、今年何回目かの
督促状。

ひえぃ〜。ごめんなんしてぇ〜。

皆さん、借りたものは返しましょう。

期日内に、ちゃんと。でも、そのつもりがあっても、なかなか返せない典型が本。裏返せば、友だちに貸した本は戻らない。

とはいえ、図書館ですから相手が悪い。

今年も、読めずに返却した本の数は、読んだ本の10倍は軽くあります。

年内にしぶしぶ返す本、その1は「ストリートワイズ」。

男は大概、仕事に夢中で、住んでいる地域のことは関心外でしょ? 定年後に「地元デビュー」なんてことが言われるくらいですから。

僕は建築が好きで、その延長線で地域コミュニティに関心が行き、そこから人々の出自とか生活を尋ねてみたい、という経路をたどります。

この本は、都市社会学からアメリカの「中間層」の人々を論じたもの。カタチばかりになってしまった日本の町内会と、どこが似ていて、どこが似ていないかという興味。

しぶしぶ返却本、その2。

オペラも、実作を見ることが大切なのはわかってますがな。

とはいえ、今まで暮らしと離れ過ぎているので、とっかかりが欲しい。しかも、音楽に特化したものでなく、風俗的なアプローチがあるものと入手した「集いと娯楽の近代スペイン セビーリャのソシアビリテ空間」。

居酒屋、店舗、売春宿、新聞に混じって、劇場というテーマもあります。

主に19世紀の、セビーリャの都市社会学。劇場が誕生し娯楽の殿堂となる時代の話。

訳者が、セビーリャで上演されたオペラの付表をつけてました。「蝶々夫人」や「ラ・ボエーム」もリストにありました。僕は、知らなかった「愛の妙薬」を聴く。

これで、セビーリャでオペラを見、「ブラボー」と叫ぶつもりになる。

しぶしぶ返却本、その3。

今年は上野の西洋美術館で「着衣のマハ」を見ました、ゴヤの。念願の堀田善衛さんの「ゴヤ」を借りました。

堀田さんはスペインに移住し、スペインのエッセイもたくさん残してます。その内の一つが評伝の「ゴヤ」ですから、教養の厚みが違います。

ついでに、本の厚みもお手軽に読めるものとは違います。決心が必要です。決心がつくまで、手放しましょう。

この絵は、高校の世界史の教科書で見ました。ダヴィッドが描いた「マラーの死」。「『怖い絵』で人間を読む」中野京子著。

これは、読みました。

音楽と同じ、絵画も「感じるままに、好きか嫌いかで判断する」という主張があります。うなずける。反対に「背景を知れば、もっとおもしろい」という意見もあります。こちらもうなずける。

マラーはフランス革命の当事者の一人。シャルロット・コルデーに暗殺された彼。革命家を殉教者のように描いたダヴィッドですが、ナポレオンが帝政を起せば、変節して巨大絵画「ナポレオンの戴冠式」を描く。

同じく革命家ダントンから「この下司野郎!」とののしられるダヴィッド。げに怖いのは、暗殺ではなくて自己保身と、著者の中野さんは言いたいのでしょう。

役所や企業で係争事件が発覚する度、繰り返される上司のおとぼけ、右に同じ。

ちなみに、この絵はコッポラ監督も忘れられなかったのでしょうか。映画「ゴッド・ファーザー」のパート2か3でも、裏切ったギャングが自刃するシーンにも同様のポーズがありましたよね?