量が大事? 質が大事? 両方大事

紀伊国屋書店の名誉会長・松原治さんが、1月3日に94歳で大往生したことを最近知りました。

彼は、全国に紀伊国屋書店を展開しました。

一方で、全国の大学図書館に販売してました。シェアは約80%ですから、まあ、大学が自慢する蔵書数は、紀伊国屋書店がほぼ納品したといっていい。

その事実を知った時、幻想が崩れました。教授たちが、必要があって永々と築きあげた結果の数ではないことに。

最初にドカンと紀伊国屋丸善その他専門書など業者が選んだ本が書架を占領し、残り微々たる%が、教授のニーズ。

それも、「読みたいけど、読んでない本」が含まれるでしょうから、実質、図書館はほとんど活用されてないに等しい。

以来、蔵書とはインテリアのことで、僕も、買った本をすべて読む義務感から自由になりました。

本は、見て楽しむ。見てくれで、中身を想像する楽しみ。

「ペンギンブックスのデザイン」フィル・ペインズ著。1935年、イギリスで創刊されたペーパーバックの装幀史です。

イギリスといえば、キャサリン・ジェンキンス。美貌ですが、趣味はパブでラグビー観戦のところが男の子。

小学生の頃、日曜日に日本橋高島屋に家族でよく出掛けました。前にあったのが丸善で、いつもシャッターが降りていました。

「このビルは、いつも休みだね。何を売ってるの?」「本屋さんだよ」と親。

和書だけでなく、洋書が売られているのが衝撃でした。

版型、デザイン、そして独特の匂い。大人気分になって陶酔した中学生に成長。

それが英語の勉強には向かわず、物体として本の興味方面へ。

「本 TAKEO PAPER SHOW 2011」(株)竹尾編。

竹尾は、紙の会社です。クリエイティブ業界では名の通った会社。

もちろん、仕事でITを使わない人はいないでしょう。けれど、同時に紙の本をことさら愛している人々が「物体としての本」の魅力を切々と語る。

本は、○○です。

精神、知、信頼、誓い、教育、共鳴、鏡、自分自身、時代、
構造、層、建築、変貌、未来。

そして、

憩い、隠れ家、枕、安息、子守唄、装い、危険、灰、武器、
器。

器、容れ物を考えるのは装幀家です。

最初に彼女を知ったのは、ベルギーでルリユールを学び日本で初めて工房を主宰した人として。

「美しい書物」栃折久美子著。

糸かがりで製本するヨーロッパ伝統の技術が、ルリユール。彼女は1980年代から活動してました。憧れはありましたが、僕も充分若かったので「それが仕事になるの?」と。

今回読んでみて、やはり、装幀の「本職」があったのです。

校正刷りを読む、アイデアを考える、スケッチを描く、著者に見せて反応をうかがう。

そのプロセスは七転八倒で、著者とのやりとりも茶目っ気があるのですが、デリカシーもあるので、見てくれは仕事をとても静かにする人という印象でした。