寒いですが、「萠え」そろそろです
啓蟄ですってよ。けいちつ。
3月初旬は、土に潜っていた虫も、陽気がよくなって地上にはい出して来る季節。オトナになると、画数の多い漢字が読めないといけない、とコドモ心に困ってました。
地上にはい出すだけでなく、午後、敷居をまたいで我が家の畳に深緑色の虫が停まってる。出てってもらいたいのだが。
「音だっち」ツネツネからの楽曲。映像がパラパラ漫画のようで、これ教科書の角でよく作ったよねぇ。
・本日のおすすめ。口ロロ
くちロロと読む。おちょくり具合が、小学生男子テイストでにんまりする。
啓蟄になると、虫だけでなく、泥棒もはい出すでしょうか? 小学生男子時代、僕の家はタバコ屋をやっていて、親はタイルとガラス製の大きなショーウインドーが自慢でした。
畳2畳分のサイズ。
ガラスの開閉部も大きく、これが仇となって泥棒に入られました。しまってあったカートンを根こそぎやられる。
親は実害を嘆き、子は黙っていたけど「その泥棒は、どんな顔をしていたんだろう」と、違うことを想像してました。
怪人二十面相もルパンが好きになったのも、この流れ。
野尻抱影も、その流れ。星の本をたくさん著きましたが、それはまったく読まず、もっぱら泥棒本ばかりで、今回は「ろんどん怪盗伝」を読む。
荒っぽいが侠気がある追いはぎ、義賊の実伝小説。大胆不敵な犯行と、あざわらう牢抜け。
大英帝国になる前のイギリスで、貧苦にあえぐ民が喝采をおくった怪盗ジャック・シェパード。
片や、「十手をあずかりながら、ロンドンの悪漢仲間を搾取し、召し上げた盗品をさばくのに海外に代理店まで設け、罪悪王国のナポレオンに擬せられたジョナサン・ワイルド」との暗闘。
十手と書くあたり、さすが昭和31年の初出の前書きです。
チョボチョボ読みが得意技の僕は、合わせて「天保・怪盗鼠小僧次郎吉」笹沢左保著にも手を出す。
こちらは、手甲脚絆とか旅籠とか長脇差しとかが出てくる実伝小説。天保三年八月十九日、鈴が森で処刑された鼠小僧、その時37歳。
墓は回向院にあって、墓石を削る人が後を絶たないので、身代わりの石までおいてあるほど人気の怪盗。
落語にもなっていて、古今亭志ん生師匠の「しじみ売り」に出てくる。子供とのやりとりがあった後、鼠小僧はお縄をちょうだいする。もちろん、創作ですけど。
表向き、茅場町で魚屋をやっている和泉屋次郎吉。ばくちに負けて、雪の降るなか、汐留にある船宿に寄り一杯やっていると、しじみを売りに来たこども。
全部買い取り、「みんな浜に逃がしてやんな」と言った後、しじみを売り歩く理由を尋ねる。
わけを聞いて、そこで娑婆にいたら義賊のアイデンティティが成り立たない、と観念する鼠小僧。しみじみします。
勢いあまってチョボチョボ読み、「ヴィドック回想録」にも手を出す。
古本屋で買って、今回、図書館のリサイクル本でも入手したので、2冊持ったことになる。が、770ページで、しかも2段組の本ですから、最後までいってません。
記録では大正12年5月に雑誌「新青年」に、ヴィドックが日本で初めて紹介された。野尻抱影さんも読んだことでしょう。
脱走兵、文書偽造、詐欺師、脱獄囚と悪業の限りをつくして後、探偵から警視総監までいったフランス男。
変装の名人で、ごたぶんにもれず、色事師でもあった。
ここで、ちょっと気付きました。
詐欺師と、色事師。どちらも熟練と経験の高度なテクニックが必要なので、「士」ではなく「師」の字をあてるのでしょうか?
バルザック、デュマ、フーコー、ポオも彼が気になり、ユーゴーに至っては「レ・ミゼラブル」の主人公ジャンバル・ジャンとして登場する。
アルセーヌ・ルパンもシャーロック・ホームズも、ヴィドックという男に触発されて創作された物語だった。
1827年、警視庁を退職して書き始めた回想録。1966年までに10の版が出版され、この翻訳の元版はジェラール・プレス版。
1775年7月23日生まれ。フランス革命の主役・ロベスピエールの家が隣にあった。産まれてすぐ、2歳に間違われたくらい大きい赤ん坊。
パン屋の小僧の頃「たっぷり時間をかけて仲間を殴るのがお定まり」の悪童時代。これが、啓蟄のイメージ。
虫は虫でも、疳の虫でしょうね。理由なく、腹が立つ。ハワード・ジョーンズのこの曲も、根っこで溜まっていたものが地上に顔を出した音ですよね。