2会場で、アウラを浴びました
この美人、どちらさんだと思いますか?
ヤドヴィガ・ロドヴィッチ=チェホフスカさん、ポーランド人。初めて、ポーランド語を聞きました。
何やってる人?
駐日ポーランド大使です。任期が6月に終わり、帰国します。
美人の大使というのも驚きましたが、彼女はワルシャワ大学日本学科卒の日本学者。元女優で、創作能「調律師 ショパンの能」を書いた人、というのだから更に驚く。
東大本郷キャンパスで、7日に彼女の講演と記録映画が上映されました。2011年2月に、ワルシャワの劇場と聖十字架教会で、創作能が上演された時の映画です。
日本から、観世銕之丞(かんぜ てつのじょう)さん以下、地謡6人、太鼓2人、小鼓1人、笛1人で演じました。
テキストが配布されなければ、何を謡っているのかわからない。彼女がポーランド語で書き、日本語訳が謡われました。
・我はドラクロワと申す絵描きなり
・大ひなる都パリにての制作に疲れたる我は
・我が霊感を得しノアンの地
・かのサンド夫人の別荘を訪ねんと思い立ちて候
サンド夫人とくれば、もう恋人のショパンでしょう。ポーランドでは未だに神様。3曲が挿入されてました。
・魂 生かしむべし
と最後に地謡があって、ショパンの遺作ノクターン20番が流れる。
作曲家ではなく調律師になったショパンの亡霊が、ノアンで出会ったドラクロアに語りかけるストーリー。
壊れた感受性の修復を、音楽で可能にする。これ、彼女の講演の受け売りです。
記録映画を見たアンジェイ・ワイダ監督は「ポーランドも日本も、敗れた者を宇宙的な高みに昇華する点で共通」と評したそうな。
違っている点もありました。
日本では、ドラマを文学・テキストから入る。ポーランドでは、音楽・美術から入る。美術大学出身者が多いらしい。
言われてみれば、日本は文学部が多そうだねぇ。
5月29日、両国の劇場シアターX(カイ)で、大使の朗読と、聖十字架教会でのドキュメンタリー映像を上映します。
失われたものとの和解。ショパンの心臓を安置している聖十字架教会版は、ミサの後に実演されたもの。
戦慄したうっとりを、翌日まで引きずって出かけたのが、菊池敏正さんの個展「NEO AUTHENTIC」- New Sculptures - 。
これまた、造形にうっとりしました。
皆さんは、xとyの関数グラフを数学の時間に体験したでしょ?
でもそれは、紙の上での体験。2次元で見ていた。そもそも関数というのは3次元だったんです。
それを立体にしたのが、この作品。数学者が「数学は美しい」と言う理由が初めて目でわかる。
菊池さんが、教えてくれました。
「19世紀末から20世紀初頭にかけて、ドイツで作られていたんです」。
現在は失われてますが、かつては、東大も所蔵していたらしい関数標本。それを復元した作品。
そういえば、大田区の大橋製作所もステンレスを精密加工した関数の「数楽アート」を作ってたなぁ。
会場には、ドクロも。
「前に、小石川にある博物館でも同じような展覧会を見ました。西野嘉章さんが企画した」。
「彼は、上司です」。
東大の総合研究博物館のメンバーでした。
「江戸時代に、大阪に各務文献(かがみ ぶんけん)という医者がいました」と、彼の説明。
骨の形を知るため解剖をするも、仏教上の理由からホンモノの人骨を使って研究・教育ができない。そこで、ヒノキを彫った。木彫の人骨、木骨。
西洋医学から教わった日本の常識が、くつがえる。
それを、改めてアートで再現した菊地さんにも驚く。
もともと芸大で文化財の保存を研究してきた彼。作品は、学術標本の復元の一環だったんです。
台座にも注目してほしい。これも自作。
「仏像がいい例です。大きさ、高さ、色で見え方が違ってきますから」と、修復する対象は本体だけじゃなかった。
頭蓋骨とアンモナイトを組み合わせたような作品もある。
「研究者とアーティストの2足の草鞋ですね?」。
「お互いに深まっていくものがありますから」。
5月26日まで、MEGUMI OGITA GALLERY 東京都中央区銀座5-4-14 銀成ビル4Fでやってます。
大使も菊地さんも、失われたものを見逃さない。