リ・スタート、リ・ボーンを始める

「『ガード下』の誕生」小林一郎著、読みました。

図書館に申し込んでから、だいぶ待たされましたから、ガード下好きは、思いのほか多いのです。

轟音、振動でコップ酒が揺れるガード下。しがない、という言葉が似あう。人生ほろほろ鳥。

そこを定年退職した大学教授、環境計画の一級建築士、美術館の学芸員、写真家がぞろぞろと歩く。名付けて「ガード下学会」。

著者の小林一郎さんは、建築の本の編集者。

大くくりで、建築に関心がある人々なんでしょうが、そこはそれ、メインストリームについていけない感性があって、それなら僕も学会に入りたいなぁ。

一郎兄さん、鉄道会社役員に尋ねたんです。

「ガード下って、本社のウチの管轄じゃない。子会社がやってるんじゃないか?」と、つれない返事をいただく。

旅客業・観光業・駅中テナント業・不動産開発業は熱心だが、ガード下は、いかにも事業内容の「下半身・鬼っ子」の扱い。

なおさら好きになりました。

彼は親会社の白い目にめげず、調べてみたら、飲食だけでなく物販の店舗もある。駐車場・倉庫はわかるとして、事務所・住宅もある。

保育園・ホテル・墓地まである。

学会メンバーが出かけた山手線。

有楽町、東京駅、旧万世橋駅、アメヤ横町、秋葉原電気街。

橋脚を列柱に見立てた2k540 AKI-OKA ARTISAN。どう読めばいいの?

ニーケーゴーヨンマル アキオカ アルチザン。何のこっちゃ?

2k540とは、東京駅からの距離。AKI-OKAとは、秋葉原御徒町間という意味。ARTISANとは、職人。

つまり、このガード下では若手クリエーターの工房とショールームやショップが合体したアーケードになっているのです。

やるじゃん、JR東日本子会社の社員。ここは一つ親会社の鼻をあかしてやってね。

とはいえ、これは例外中の例外でしょう。

メンバーたちは総武線京浜東北線・中央線から、足を伸ばして横浜や関西まで遠征してます。

印象としては、薄暗い「洞窟」の魅力を探訪。

付録のガイドに思わず膝を打つ。

歩きやすい服装。メモ帳。カメラ。雑多な観察眼が必要だから、1人より2人、2人より3人のほうが良い。そして、お薦めなのが「素描遊歩」。

それも「大竹メソッド」がいいのだった。

東京造形大学の大竹誠教授が実践しているスケッチ。

・利き手と反対の手で描く

・一筆描きする

・色違いの2本のペンを一度に持つ

すると雑談をやめて、誰もが一心不乱に対象を見つめるらしい。感情を排し、見逃していた物を発見する。

これすなわち、建築家コルビジェが起した芸術運動ピュリスムのこと。

まごまごしてると、18世紀新古典主義の建築家・画家ピラネージの領域にいたるのも可。

その他、障子紙で拓本をとるフロッタージュや、ガード下建築模型作りも挑戦しよう!

なぜ、こんなことを細々書いているか?

皆様、今週から僕は画学生になりました。憧れの。

毎週木曜の水泳教室に続き、火曜はめでたく多摩美術大学「ひとを描く」を受講する。受講生証の学籍番号80022990。

2016年3月31日まで有効期限だもんねぇ。「大切に保管してください」と指導されてんだもんねぇ。図書館・美術館がタダだもんねぇ。

初めて、モデルなる人物と相対しました。

10時から12時半の間に、8枚クロッキーを描く。5分、8分、10分、15分で、どこまで描写できるかのトレーニング。

いや、難しいけどおもしろい。

生徒は、6人ほど。さすがに、なにほどかの経験者ばかり。ということは、それなりに画材も使い込んだものを持参してました。

初回でしたので、僕は文房具屋で買ったスケッチブックと鉛筆・消しゴムだけ。こんなシロウトくさい道具の人はいません。

休憩時間に、校内の廊下を歩く。美術展・公募展のポスターが目白押しで掲出されてます。

「ん〜、やはりロートレックはうまい」。

「人体は、弓なりの形をしてます」と、さっき先生から教わったばっかり。その静止状態すら悪戦苦闘しているのに、この躍動感あふれる動態は、どうよ!

「陶酔のパリ・モンマルトル」八王子市夢美術館で5月20日までやってます。4月には、かとうかなこさんが19世紀末を彷彿とさせるアコーデオンの演奏会もあったんですね。

多摩美通学は、さすがに不安でした。

そこで、事前に絵の腕ならしができるところはないか? さがしたら、世田谷区が9日から毎水曜日に4回だけの絵画教室をやっていたので参加したんです。

静物でした。

陶製ポットとか、ぬいぐるみとか、外国土産物とか、奥様好みの静物。まぁ、受講料タダだからしょうがない。

スケッチしてみましたが、難しい。

渋谷区では、植物細密画=ボタニカルアートの同好会メンバーとも知り合いになりました。

これは、イタチの毛の面相筆を使うような絵。性格上は、好きな絵ではありません。けれども、描く技量という点では、挑戦したくもなります。

ま、その前に揃える道具を買わないと。

大学売店に入る。

油絵の道具一式。こちらは、もらったリストを読み上げてるだけなのに、一々店員さんに逆質問に会う。

筆、「硬さは?」。筆の洗浄液、「テレピン、リンシード?」。刷毛、「幅は?」。パレット、「木製、紙製?」。

もう、答えられない。どう使うものなのか、不明なので。

甘酸っぱい、思い出の品が売られてました。

ロール状のキャンバス地。

25歳の頃、絵を描きたい、それも巨大な絵を描きたいとなけなしのお金を出して買ったんです。引っ越しを繰り返しているうちに、とうとう面倒になって捨てる。

仕事に傾斜していくプロセスと同時並行の、我が歩み。

まぁ、飽きっぽいからとりあえず3ヶ月の講座です。キャンパスでは「こんにちは」と声をかけられる。

画学生、好きです。