降って来た時を鮮やかに覚えてる人々
植え込みでおぼれているおじいさんを助けました。
姉の旦那さんが、長期入院しているお茶の水の順天堂大学病院へ行きました。
見上げるような病院。病室を見舞って、1階のテラスでお茶を飲んで休憩。スズメが寄って来たので、そっと歩み寄る。
スズメ逃げる → そっと寄る。
病院の敷地を隔てる植え込みを見る。おじいさんが体を植え込みに陥没させて、手足を緩慢にバタバタしている。
スズメ逃げる → そっと寄る。
1秒後に、ふり戻る。えっ! どうしたの? おじいさん。3秒後に状況が判断できたので、抱きかかえるように起す。
抱っこして、あたりを見渡す。「付き添い人は、どこ行っちゃったの?」。
いました、歩道でタクシーを探してました。呼び止めることに夢中で、足元が覚束ないおじいさんのことを忘れてる。
無事、タクシーに坐らせて一安心。
お茶の水駅にもどる。違う駅で帰りたかったので、とりあえず三省堂書店まで歩き出す。
「そうだ、『山の上ホテル』に寄ろう」。
相変わらず、文士がカンヅメになって原稿書くような、いい味出してます。
ドア、手すり、絨毯。地下階に降りると、内装がカテドラル風スペースで吹き抜けになっていました。
「平日は、ビアガーデンです。土・日は結婚式場になるんです」。新商売、始めたのね。
吹き抜けから、にぎやかな声と音が聴こえてくる。隣は明治大学ですから、たぶん、「ジャズ研究会」とかの部室棟があるんでしょうね。
そういえば、界隈は楽器屋が多いよね。学生が多いから、楽器屋。通っても僕には縁のない店でした。
でも、このホテルの外観を見上げると、聴こえてくるじゃありませんか、ホテル・カリフォルニア。ジャケットの引き写し。夏の定番。
「ロックンロールが降ってきた日」Pヴァイン・ブックス刊を読んでいた影響です。
主義がないから、すぐ、影響される。
ザ・コレクターズの古市コータロー兄さん。1964年生まれの、ギタリスト。
5歳でフィンガー5。小学校4年で、高田馬場へ中古レコード屋でビートルズを買いに走る。のめりこむ途中で、カーペンタースも聴く。
中学生になって、ラジオでアバやエアロスミスやキス。
・ボーカル、ギター、ベース、ドラムが皆んなかっこいいんだよ。ギブソンの黒のファイヤーバード持ってたんだよ。でも、「楽譜、読めないしなぁ」。
・池袋のヤマハでジギーズ・セックスのライブが終わり、スクリーンが降りて来て、そこに登場したワケですよ! セックス・ピストルズが。
・もう、ビートルズやジギーズ・セックス皆んな忘れたね。映像が生演奏に勝っちゃった。あの衝撃は、今だって超えてないよ。
ゼッタイ、ギターやるしかないな、と古市コータロー兄さんは決断する。
・78年1月、ついにギター買っちゃうんだよ、お年玉で。池袋では買わなかったのは、鉄則だったわけ。池袋で8万円なら、お茶の水なら6万4千だよ。これは常識だった。
練習するのは、音楽雑誌に譜面が載っている「天国の階段」とか「ホテル・カリフォルニア」。
15人が登場して、ロックが我が身に降って来た時を語った本です。
たいがい、小学生の時に下地ができて、中学生の時に降ってくる。
どのようなDNAが彼をロックに感応させたか、それがとても不思議だった。
編者の秋元美乃・森内淳ご両人は、僕よりロックに真剣です。「CM曲をケータイにダウンロードして、5回くらい聴いたら消去する」現在の風潮に危機感があったから。
好きなロックが、消耗品扱いされるせつなさに、各人の原点を探ってみようと思い立つ。
「音楽を聴いて、自由に妄想する楽しさ」を伝えたい。
妄想するルートもいろいろあることを知ったのは、社会人になってからですから、僕はそうとう遅手。
それくらい、ぼんやりしてた。だから、彼らがとても早熟に見えた。
「ドカンと来る」「刺さる」「価値が180度変わる」「これで食うと決めた」「うわっ」「すげえ」「神聖な儀式」「ゾクゾク」「号泣だよ」「これしかねぇ」。ロックンローラーは皆んな、高感度な子供だったんだ。
2012年は、ロックが誕生して61年目だそうです。小学生だった頃、姉が夢中だったプレスリーの映画を見る。
1957年「監獄ロック」は、誕生して6年目の映画でした。