59ステップで、あなたも惑星に

近頃、ファッションブランドが開催する展覧会や映画会づいてます。

ディオールエルメスの発表会を5月に見ました。

グッチも2006年から映画の修復・保存を支援していて、それを12月まで月替わりで公開するという。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」「甘い生活」「山猫」と来るから、もうイタリア好きにはたまりません。

プラダやフェンディも、映画を作った。

6月になって、またエルメスに行きました。

映画は、「非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎」。30日までやってます。予約制だから、もう満員かもしれませんが。

病院の雑用係をやっていた老人、実は、引きこもって1万5千ページの小説と、300枚の挿絵を遺していた。

巨大な妄想です。バラードもあります。映画の中で、流れていたかどうかは不明です。

正直に書きます。眠てました。起きていたのは、半分。幻想譚が、あまりに壮大な謎でついていけませんでした。それに、エルメスの映写室は、居心地がよすぎるので。

それにしても、ダーガーの肖像写真はいい。

映画は10階でやってました。その前に見たのが、8階でやっていたトマス・サラセーノの個展です。

夏向きの企画で、8月31日までやってます。

どこが夏向きかといえば、空をテーマにしているから。タイトルも「クラウド・シティ」。要するに、空中都市への夢。雲のように浮上することへの憧れ。

アルゼンチンで生まれ、建築を学ぶ。ドイツで美術を学ぶ。

ですから、浮かんでいるのは居住空間なのでしょう。

とはいえ、僕は彼を工作好きとにらんだ。工作でアートする男。

黒いゴミ袋を張り合わせたような、巨大なバルーン。直径1mほどの開口部に、扇風機が風を送っている。

「入ってもいいんですか?」。

「ぜひ、中に入ってみてください」。

ボディは黒地が半分、透明ビニール部が半分。ビルのガラスブロックから差し込んだ光が、バルーンの内部を照明する。

なんという、幻想だろう。

奥まで進むと、モニターが1台。実際に、翔ばした記録が映像で流れてました。

彼のは、いわゆる熱気球とは違うんです。

エコロジカルな思想をもった建築のつもり。「空は、庭なんだ」という考え方。

「この扇風機で、バルーンを膨らませたんですか?」と訊く。

「実際に空を翔んだものは、これの倍サイズあります。これは、今回の展示のために作りました」。

最初は大型の送風機で膨らませ、後は、容積を維持するために家庭用扇風機が稼働していたんです。

合わせて、マニュアルもらいました。「所要時間:2人で24時間  太陽エネルギーを利用した、空に浮かぶための59のステップ」。

ステップ 1

厚さ20ミクロンの黒いポリエチレンチューブのロールをほどきます。全部で353m分が必要。

ステップ 2

シートを16層に重ねて床に広げます。間に入った空気は、押し出しましょう。シートがずれないように、洗濯バサミで止めましょう。ポリエチレンのシートは二重になっているので、全部で32層になります。

いやぁ、どうしよう、やる気になってきちゃうなぁ。

ステップ 56

この飛行装置は、太陽の熱だけで浮かびます。よく晴れた、風のまったくない日を、首を長くして待っていてください。

ステップ 59

新しい惑星が、軌道をさがしています。

こんなに簡単に惑星になれていいのかなぁ。気分は、つのだたかしさんでしょうか?