単純で無邪気な日々を「開けて閉じる」
「デイビッド・リンチ展」6月27日から始まる。
いち早くニュースを目にしても行けず、7月は2回ばかり「まだ、やってますか?」とギャラリーに問い合わせた記憶があります。訪ねたのは、7月16日。23日に終了しました。
今回も、過去帳をひっくり返して書いてます。
映画監督のデイビッド・リンチが絵を描いていた、というのが意外でした。
「エレファントマン」を見たのが1980年。あの頃、僕は30代の始り。奇形の見世物小屋が舞台。かさぶた・腫れ物を見る思いは、子供のころの縁日にある禍々しさと国は違えど共通なんだ、と監督が好きになる。
あれから、「ブルーベルベット」「ワイルド・アット・ハート」「ツイン・ピークス」「ストレイト・ストーリー」「マルホランド・ドライブ」と、20年間のつきあい。
「ストレイト・ストーリー」を除いて、どれも、やっかいな映画です。異様さがウリの監督。
だから、絵も同じように、安らぎのない、伝達不能な、混乱の痕のようなものでしょうと期待する。
渋谷・ヒカリエは、この階だけ異質。画廊・ミュージアム・ワークスペースなどが並んでます。当然、天井は空調ダクトがうねる。
絵は、期待通りでした。
怖さは、出現したものよりも、出現を予感させるほうが怖い。穏やかで平凡なものが、奇妙で不安なものに変化していく気配。
見に来ていた人は、たいがい30歳前後の男子。若干、女子も。共通しているのは、どなたもクリエイティブ志向の子(だろう)。
パネルを読むと、監督は画学生だった。ということは、映画より絵のほうがキャリアが長いんだ。
ということは、脚本も書くでしょうが、ビジュアルをどう作るかの関心が高いんだね。映像の感覚を、言葉だけに頼らない人。
講演会を聞いていると、監督はルールとか習慣とか思い込みを横断するために、瞑想しているのだった。
凝視する点で、絵を描くことも瞑想に近いかな?
カウンターには、彼の画集が置かれてました。10センチくらいの厚み。こんなに描いてきたんだね。
本の隣にはCDもある。
「Crazy Clown Timeです。デビューアルバムです」と、カウンター嬢。
とうとう音にまで進出。
「映像作家自身が語る デイビット・リンチ」フィルムアート社刊を読んでいると、「ブルーベルベット」を撮っている時に、音楽を担当したアンジェロ・バダラメンティに出会って、音楽に目覚めたらしい。
30年かかって、CD製作。
もう、こうなりゃぁ、「ブルーベルベット」の本編を見なきゃなるまい。急遽「残り物名画座」。
なにごともない平穏な日が、かさぶたを剥がすとアブノーマルがある。しばし異界を体験して、かさぶたを閉じて日常に還る。
まるで、何もなかったかのように。