一世一代の仕事をした五右衛門は

落語の桂平治師匠が、この秋に十一代桂文治を襲名するという。

噺が明るくなる芸を持ってます。

先代十代目の文治師匠は、普段から和服で過ごしました。小さくて、目がキョロキョロして、女子高校生からも「かわいい」と、もてた人。

彼の持ちネタの中でも、「お血脈(おけちみゃく)」は、飄々としたオトボケ味の噺ですから、高座にかかるとうれしかった。

舞台は、「牛に曳かれて善光寺参り」の善光寺長野駅から、北へ一直線。名物の蕎麦を食べてから、バスで大門に向かう。

遊郭の吉原なら「おおもん」と呼ぶ。善光寺の場合は「だいもん」。

お土産屋が並ぶ、表参道を歩く。宿坊が見えて来る。「○○株式会社 ご一行様」と札がかかっている。研修旅行で宿坊に泊まるのは、社長の趣味か? 人事部長の考えか? 新入社員の希望か?

境内入り口の二天門に、阿吽の仁王像。ここから山門まで約400mの敷設は、日本橋の豪商・大竹屋平兵衛の寄進で行われた。

平兵衛の長男は放蕩息子で、家に寄り付かなかった。

ある夜、盗賊が押し入り、突き殺すと、なんと我が子であった。平兵衛は家督を譲り、巡礼の旅に出る。途中、善光寺に寄り、諸人の難儀を救うため、敷石を寄進し、後に出家もする。

現在、史跡になっている参道縁起の案内板から。

落語には、放蕩息子や盗賊が数限りなく登場します。「お血脈」も、その一つ。

・地獄は、最近不景気風が吹いている。

閻魔大王も、ほとほと困ってる。「なぜ最近、地獄に来る奴ばらがいないのか?」

・調査してみたところ、信州の善光寺では、参詣者に「お血脈の印」なるものを授けている。それを受け取れば、どんなワルでも、極楽に行けるらしい。

・「まずいじゃん」と、大王は地獄で緊急会議を招集。

・そこらじゅうの鬼畜が集まって、衆議一決。「その、『お血脈の印』なるものを寺から盗めば、地獄に落ちてくる奴ばらがどんどん増える」。

ちょっと、休憩しましょうか? ペーター・レーゼルのピアノなんかどうでしょう。

・地獄には、名うての盗賊がゴロゴロしているけど、ここは、やっぱ石川五右衛門でしょう。

・ところが、彼は地獄に来る前に、鋸引きや石臼責めで体がバラバラ。

・急遽、赤鬼や青鬼たちは、彼の骨を拾い集めて、針金やアロンアルファで接着して元の体にもどす。

・そこで閻魔大王は「わるいんだが、一仕事してくれ」と盗みの依頼。

・勇躍、善光寺に乗り込んだが、「お血脈の印」がどこにあるか見当がつかない。とはいえ、そこはプロ中のプロ。やっと発見した。

・「しめしめ、これだな」と懐に入れて、地獄に帰ろうとしたら、あにはからんや、極楽に飛んでっちゃった。

僕も極楽へ行きたいので、「お血脈の印」を入手。額に3回はたいて、懐にしまう。

十代目の文治師匠、今日も極楽で「どうぞ、おかまいなく」と高座で一席やってるかな?