座頭市は、偶然を心待ちする旅の空

三連休は、いかがでしたか?

クルマで東京から遠出した人も、多かったことでしょう。

15日土曜日の下り路線は、たぶん渋滞。そう計算したので、その日に東京に帰れば、上りの道路はスムースに流れてるだろう、と。

あまかった、です。

東京を10時に出発した高速バスは、1時ころ清里に着く。そのまま折り返して東京に戻る。1日で往復することを、忘れてました。

バスは下りの渋滞に巻き込まれ、清里到着が遅れたので、現地での出発時間も1時間遅れてスタート。

それでも、談合坂PAまでは、流れてました。

そこからが、いけません。新宿まで、延々大渋滞。

東京人に三連休なら、地方人も三連休。関東に遊びに来る人が大勢いることを忘れてました。

でも、イライラしません。

持ち込んだ本があったので。「偶然完全 勝新太郎伝」田崎健太著。

毎度、清里に本を持参して、読めたためしがありません。滞在期間が短いということもあります。

加えて、環境が変わると、読む気になれない。つまり、行けば「普段」じゃなくなるからでしょう。自然の中で読書する理想、険し。

「偶然完全」も東京で半分読んでいましたが、結局、途中で止まったまま。

偶然であることが、なにより完全なんだ。これが、勝新太郎さんの映画哲学。ですから、シナリオをどんどん壊していくことを常に考えている。

ありそうなこと、をやりたくない。これ、すごくやっかい。

回りに迷惑、波風を立てる。時間と場所とお金と進行を計算してる人には、困った人。でも、ねぇ。ありそうな映画、見たいですか?

著者は、週刊ポストの編集者だった人。勝新太郎さんを回答者に迎えて、人生相談のページを担当したのが出会い。

読者の相談事をにらんで、真剣に答えを出し続けようとする彼。原稿化するのは、いつもギリギリ。製本前の刷り出しで、チェックを受ける。

「これじゃ駄目だ。

『つんれん つれつど てんれんれん』なのに

『つんれん つれつど でんでんれん』になっている。

これじゃ、三味線にならない。すぐ変えてくれ」。

すでに、輪転機は回っている。配本するのに時間がかかる地方分は、もう間に合わない。でも、首都圏分は?

勝さんの目に入る首都圏分だけでも訂正したい、と機械を止める。

長唄や歌舞伎の間・リズムが体に詰まっている勝新太郎。邦楽の魅力は、とりつく島のなさ。でも、あいまいさに厳格なルールがある。

譲れないものは、なんとしても駄目なんです。

憧れの人、さらに深まって、帰宅してからCDを3枚聴く。

・「歌いまくる勝新太郎

監修したのが、湯浅学根本敬兄さんたちが主宰する「幻の名盤解放同盟」。選曲がエクセレント。「座頭市の歌」も、コンプリート・セリフ入り。

・「遊びばなし」「もいちど 遊びばなし」

こちらは、得意の長唄の喉を楽しめ、また、中村玉緒さんの証言も入ってます。

「あたし、こわい人が好きなんです。それと、手を焼かされる人が、好きなんです。

ご飯ですよ、と言っても、すぐ食べてくれないし

お風呂沸いてますよ、と言っても、入ってくれない。

でも、知らないうちにお風呂に入っている。

素直じゃないし、逆さまばっかりする人を、好きになってしまったんです」。

映画だけじゃなく、私生活でも、偶然じゃないといやだった奥村利夫御大。

さぞ、うつし世は必然ばかりで退屈だったことでしょう。