へたを聞くと、うまい人の一人話芸がわかる


落語も、寄席以外で聞くとひと味違います。

ライブハウスのような所は、いけません。寺社なら、いい。寺社も、できればホールのような所じゃなくて、本堂なら可。

湯島天神であったのは、参集殿ですからホールです。ホールは、床が平たい。そこに椅子が並ぶと、最後尾の人も見られるように、高座が高くなる。

どれくらい高くしないとだめかといえば、落語家が高座に立った時、頭が天井につくくらい。これに、観客はハラハラしますよ「おっこちるんじゃないか」と。

出囃子で高座に「登った」一之輔兄さん、高さに不安な顔してました。

春風亭一之輔ひとり会」。たっぷり。

まずは、「加賀の千代」。知り合いから借金をする時の知恵。1万円借りたければ、「2万円貸して欲しい」と言えば「1万円なら」と相手は応える。

世知辛い知恵は、たいがい、おかみさんが出す。亭主がぼ〜っとしてますから。

2席目は「くしゃみ講釈」。コトを進めるには、5W1Hが大事。When、Where、Why、Who、What、How。長屋の2人が、これを何回も繰り返す。

Whatは、胡椒。乾物屋に来て、これがなかなか思い出せない「いったい、何を買いに来たんだっけ?」。

3席目は「百川(ももかわ)」。河岸の若い衆と、料理屋のじいさんの掛け合い。(その辺の事情を)呑み込んでくだせぇ、と頼まれて、大きなクワイを呑み込む。

現34歳だから、ギャグも若い。盛り。

湯島天神の境内では、菊まつりの準備をしてました。

満開になった時、花弁を裏から支えるスパイラル状の針金。夕方の暗さに、白銀の円巻自身が花のように鮮やかだった。

ぽっとひらめいたのが、十三夜。

中秋の名月十五夜ほどは知られてません。そういえば、樋口一葉女史にも「十三夜」があったなぁ。

CDで再々々々聴する。幸田弘子さんの。

旧暦九月十三日。調べたら、2012年は10月27日でした。「十三夜」は、明治28年に「たけくらべ」と並行して著かれた。

この夜、主人公のお関は、亭主のいじめに耐えかねて、実家に来ていた。「離婚したい」と。事情に憤懣やるかたない母と、諄々と説得する父。

嫁ぎ先にもどる人力車。引いていたのは、初恋の相手・録之助。お関が結婚して、「どうにでもなれ」と現在のていたらくを自嘲する。

うまいんだ、幸田弘子さんの朗読。再々々々聴しても、毎回初めて聞くようでね。

読むのは、何回も挫折してました。

聞いて一葉女史の追っかけが始まったようなもの。日本語の「もろさ」を美しいと感じたは、女史の言葉遣いでした。チェロの音。

めいめいが、憂いをかかえて生きている。

十三夜の月に照らされた2人のシルエットが浮かぶようです。余韻の時間の長さ。

同じCDでも、ずっと聞かないでいたものがありました。吉川英治宮本武蔵」。

徳川夢声翁が朗読した「宮本武蔵」。新潮社で発売してます。全部で77枚。だいたい90時間。

1961〜62年にかけてラジオ放送されていたもの。かすかに記憶があります。

夢声翁は、無声映画で弁士をやっていた人。数ある登場人物をじゃべり分けていたので、落語家同様、年寄りから子供まで、男であれ女であれ自在。

10年くらい前に、1枚聞いてほったらかししてました。喋りのペースが遅すぎるから。

今回聞いてみて、全然不自然じゃない。老いて緩慢になったということでしょう。波長がぴったりで、どんどん中に入って来てます。

秋の夜長は、「宮本武蔵」じゃ。