昔の口説き文句「愛の砂漠」なんちて
久しぶりの「残り物名画座」。今回は、DVD「赤い砂漠」。
ジャケットを見たら1964年公開。高校生でした。お兄さん世代が話題にしてた映画。どの辺のお兄さんかといえば、芥川賞系の文学青年。
だったのだろうと、想像しました。
荒涼としたイタリアの土地・河川・樹木・空気。それと、巨大な工場・プラント・貨物船。
好きな風景。
ですが、これはロケハンだけで1年はかかっただろうと思われる。雑誌「ナショナル・ジオグラフィック」に掲載されるような土地。
ちょろっと歩いて見つかる場所じゃない。ヒートテック3枚に、目出し帽に、厚手の靴下2足でも底冷えがするくらいの所でロケ。
色のない風景が、主演のモニカ・ヴィッティの心を表している。
交通事故で精神異常になった女の不安定さ。現在の生に適応できない孤独をたっぷり見せる。
一方、強調して見せるのは、それだけじゃなくて彼女の足。つまり、エロス。でも、それすら不毛なのだ。
1分ほど、ベッドシーンあり。ドアップで、男の背中が映る。まるで風がつくった砂漠のようでした。
監督は、ご存知ミケランジェロ・アントニオーニ。
社会の蹉跌を描く巨匠は、1962年に「太陽はひとりぼっち」を撮りました。
彼女とアラン・ドロンの映画。音楽は、「赤い砂漠」と同じジョバンニ・フスコだった。
もう一本、出掛けて見た「残り物名画座」があります。
オーディトリウム渋谷でやってる、テオ・アンゲロプロス監督追悼第6弾「ユリシーズの瞳」1995年。
ハーベィ・カイテル主演。普通の人が持ってる、あきらめきれないものを演じて右にでる俳優はいません。177分間、こちらはバルカン半島7カ国をロケ。
西欧には無い風景でした。
深いあばら骨につまった膂力を感じさせる監督。お茶漬けサラサラの日本人監督では、到底無理な映画を作ります。
20世紀初めに撮影されたという、伝説の未現像の3本のフィルムを探す男。物語というより、巡礼ですね。
池澤夏樹さんが字幕をつけた、というから配給会社もチカラが入っていたんでしょう。
もどって、モニカ・ヴィッティ。
ケネディ大統領のかみさんジャクリーヌほどじゃないけど、目が離れてる。この距離は、気持ちが離脱する表情にうってつけだった。