満開の夜桜の下、「くんなまし」が歩く

歌舞伎も落語も講談も浪曲も、ウソと大袈裟ですからね。

公共広告機構が眉をひそめるようなストーリばかり。文句なく、屁のカッパで楽しい。

前回に続き、浪曲鑑賞の夕べ。(読む人によっては、昼下がり)

玉川太福さんの次は、港屋小柳(こりゅう)さんの「深川裸祭り」でした。

深川のランドマーク、富岡八幡宮。古道具市によく通いました。時代小説家・山本一力兄さんの地元。

歌舞伎キャラの新門辰五郎も、浅草やこのあたりを縄張りにしてました。実在の町火消、鳶頭、香具師、侠客、浅草寺門番。ウソと大袈裟で飛翔させて数々の台本が作られた。

剛毅でうる鳶の千太、足場から落ちて頭を打ち、目が見えなくなった。稼ぎもできない。前にかみさんに死なれて、息子の千吉が不憫このうえない日々。

八幡宮の祭りがやってきた。「ちゃん、『小若』と染めた半纏がほしいよ」と、せがむ千吉。「みんなと揃いの」。

そんな銭は、どこにもない千太。自分の半纏を出して、隣のおばさんに寸法を詰めてもらう。足袋は? 自分のを脱いで履かせて、縄で縛ってピタリとおさめる。かかとが、くるぶしまで回り込む。

皆に「ヘンなの」と笑われる千吉。「あっち、行け」。

そこに、義狭の辰五郎。「神輿は心で担ぐもんだ」と一喝。ふんどし一つが筋と、身にまとっているものを全員が剥ぐ。けつっぺたフェス、いい話だねぇ。

大看板、澤孝子師は「姿三四郎 恋暦」。

さんざ雨降り、下駄の鼻緒が切れた娘に、持ってた手拭いを裂いて直してあげた男。

「あの、お名前だけでも」「いやいや。じゃぁ」と笑顔で立ち去る。恋の予感。

家にもどった娘の父は、警視庁柔術指南役。講道館代表との試合が控えている。

勝ってほしい娘は、神田明神にお百度参りに向かう。「やぁ、また会いましたね」と、鼻緒の男。今度は、お互い自己紹介。「えっ、俺が闘う相手の娘とは」と戦慄する三四郎。無言で足早に消える。

運びが、ベタでしょう? もう、大好き。

試合は、三四郎山嵐でイッポン。畳に崩れ落ちた指南役、「姿さん、おみごとでした」で幕。山嵐って技、どういうの?

トリは、国本武春兄さんの「紺屋(こうや)高尾」。落語でもおなじみのネタです。

「傾城(けいせい)に、真(まこと)無いとは、誰(たれ)言うた」。

吉原の花魁・高尾太夫は絶世の美女。夜桜見物に出掛けた紺屋の久造は、雷にうたれたようにフリーズする。トリオ・リベルタ

以来、やかんを見ても、火鉢を見ても、灯籠を見ても高尾に見える。

「主(ぬし)、御(ぎょ)しなまんし」と促されて、無事本懐を遂げる。真実をもらした久造に、「来年の三月、わちきは」と、嫁にもらってほしいと告げる。

紺屋に帰って来た久造、「来年の三月」が口癖になる。

「おい、三月っ」

「へぃ」。

待ちに待った、三月の艶やかなことといったら。

そろそろですよ。皆さんの艶やか話を聞きたい。(あれば)