東京進出したおかあさんの「わけあり」
港の酒場は、「わけあり」がよく似合う。
漁港はいけません、健康で。朝が早い生業でやってますから、夜は灯りがともってない。貿易港の酒場、これが「わけあり」。でも、外国味がまざってます。
新宿ゴールデン街の店は、同じ「わけあり」でも、なんとなくレジスタンス文化の香りがします。
純国産の、徹底的に私的な、文学的じゃない「わけあり」は、お好み焼き屋さんじゃないかとふんでます。
経験では、店内の風景が違います。
・客を迎える店員がいない
・厨房から作業している音が聞こえない
・注文を取りにきたおばさんがシンナリしてる
とにかく不穏なんです。出直して来ようかなぁ。でも、そんなこと言おうものなら、取り返しのつかないことが起きそうな不気味さ。
二子玉川「大文字焼きそば・浪花焼」のおかみさんは、自ら「わけあり」と名乗るお好み焼き屋だった。
不穏ではなく、過剰。
自戒五条の張り紙。 ちなみに、一条。つらいことが多いのは、感謝を知らないからだ。以下、略。
物づくりする手前どもの心。 一、お客様のご愛顧に、精一杯の真心で報いたい。以下、略。
青ねぎ焼きの説明書。 青ねぎはくさみ、辛み、臭いがなく、甘くておいしい。まず、何も付けずに一口お召し上がりください。以下、略。
酒を飲む錫(すず)器の説明書。 奈良朝以前に、薬種の容器として日本に渡来し・・・以下、略。
頭を前後左右に振った先々に、ことわりの説明書き。そうか、提供するすべてが「わけあり」だったのだ。こういうのを熟読するのは好きなんだ。