沈黙から始まる彼の内面を知りたい
新聞社の写真部員が、政治部担当になった。
毎日、国会や首相官邸や政党本部に詰めて撮影をする。1年やれば飽きるでしょう。どうころんでも、被写体が映りの悪いオヤジだから。
写真学校では、行政だの自治だの外交だの立法だの教えないし。
「なんのために写真の修業をしたのか?」と、野猿の写真家に転向した男の話を聞いた時、むべなるかなと納得したな。
じゃあ、ファッション面の写真は?
ニューヨーク・タイムズのファッション面でがんばっている写真家ビル・カニンガム。ストリート・ファッション一筋に、現在84歳。映画「ビル・カニンガム&ニューヨーク」。
ボーグやバザーといったファッション誌と契約している写真家は100年前からいて、どちらさんも高名です。写真集や展覧会にもなる。
ビルは違う。
・有名人が無料で着るファッションには興味がない。
ギャラが安いから貧乏。
アシスタントはいない。寝る場所は、事務所のキャビネットの上。雨カッパはガムテープで修理する。移動は自転車。服装は道路清掃人のユニフォーム。食は安くすませる。
妻子は、もちろんいない。
酷暑であろうが酷寒であろうが、ひたすら街角に立って、きょろきょろして、メモするようにレンズを向ける。1日経験すれば、どれだけ過酷なことかわかります。
白眉は、宗教観を問われた時。
陽気なビルが、虚をつかれたように沈黙した。自分の生活を評して「風車に挑むドン・キホーテのようだ」と語る。名もない人生だけど、これに価値があるという業。
映画館に余裕をもって入ったつもりでした。ところが、スクリーン最前列しか席が空いてなかった。老人が主人公なのに、若い人が多くて意外だった。
Tryo。