川本三郎さんは、胸を詰まらせる

世田谷文学館で開催された講座「書物の達人 丸谷才一」に出席しました。

7月までの5回連続講座で、僕が聞いたのは「昭和史のなかの丸谷才一川本三郎さん講演です。

三郎兄さんは、古本街でよく見かけました。とにかく若い。今回も「来年70歳になります」と言ってましたが、50歳代でも充分通用します。

額にかかる前髪、太い眉、シャツもジャケットもカジュアル。妻に先立たれた寂しさが、そこはかとなく漂って、いい感じ。

話のテーマは、文化勲章受章者の丸谷才一さんです。彼は、私小説が大嫌い。日本の古典から海外文学まで、守備範囲が広い。加えて、翻訳・評論・随筆。

知的で軽妙な文を書きました。そこが、好きでした。でも、三郎兄さんは、「昭和史のなかの丸谷才一」わけても戦争と国家に関わる小説群をとりあげる。

「裏声で歌え君が代」「たった一人の反乱」「笹まくら」など。1925年生まれ。徴兵された自分の経験が、色濃く反映された文学。徴兵拒否をした主人公の懊悩を書いた文学。

その他のジャンルの昭和史もあるのに、なぜ、戦争と国家がテーマなのか講演を聞きながら不思議でした。

最後の5分で、謎が解ける。

三郎兄さんは、公安事件で逮捕されました。それを、自伝として「マイ・バック・ページ」に著きました。

出版された直後、丸谷才一さんが書評で絶賛。お礼に出向くと、「あれは、『笹まくら』の主人公だよ」と言われる。

その時の感動が蘇ったのか、三郎兄さんはマイクに向かってウルウルしていた。

国が、基本的に民営化しない機関は軍・警察・税務署。暴力装置と財政装置。警察から受けた圧力は、一生ぬぐえないものとなる。

国家権力とは何か? それは、映画や散歩や荷風の本を書いていても、通奏低音のようにあったのでしょう。

荷風も軍国・軍隊・軍人が大嫌いだった。

藤倉 大