生物の機能を人のふるまいで語る

「植物はそこまで知っている」河出書房新社刊。

著者はダニエル・チャモビッツ。訳者は矢野真千子さん。

矢野さんのプロフィールを読むと、「解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯」「ES細胞の最前線」「アートで見る医学の歴史」とか「迷惑な進化」などを訳してきた人。

理科系女子は、リケジョ。医科系女子は、イケジョ。イケジョの彼女が翻訳したものは、なんとなく読みたくなる。「迷惑な進化」なんて、誰に迷惑かけてるんでしょ?

最初の「植物は〜」も、そのクチ。

第1章 植物は見ている。以下、匂いを嗅いでいる。接触を感じている。聞いている。位置を感じてる。憶えている。

園芸高校の高橋先生が言ってた。

「同じ植物を10鉢並べると、それぞれ育てた人の人柄が現れているのがおもしろい」。

せっかちな人が育てたバラ、ズボラな人が育てたバラ、杓子定規な人が育てたバラ。それぞれが、花弁の表情になってるって、想像しただけで笑えるでしょ。

植物の機能を、人間の五感と比較するという切り口。「視覚」「嗅覚」「触覚」「聴覚」。「味覚」は嗅覚の変形だそうだ。

とはいえ、科学をわかりやすく伝えるために擬人化すればいい、という考えではない。

21世紀になって、生物種のゲノム解析が格段に進み、人と植物は同じ遺伝子が多々あることがわかってきた。20世紀までは、タンパク質をつくるためのプログラムが遺伝子というもの。新世紀では、遺伝子は素材であってプログラムは別のところにある、という新思考。

訳者の矢野さんに興味深い原書を引き合わせているのは、編集部の𢰝木敏男さん。適材適訳なんだろう。

テイ・トウワ