秘密だけど、秘密じゃないレイさん
「ジオラマだ」。
田園都市線は住宅街を走るので、あまり高層ビルはない。例外は、三軒茶屋にあるキャロットタワー。26階の最上階は、全面ガラス張り。暑気にうんざりしてるのは、人間ばかりじゃない。風景も辟易。
遠景は、温気で空と混ざり合う。近場に目をもどすと、世田谷線の線路が模型のNゲージのように見える。
カウンターで氷イチゴを注文。シャコシャコやってると、車両登場。タワーの直下にあるということは、三軒茶屋駅から1つ目の西太子堂駅か?
「あれくらいの駅なら、工作できるな」。いや、工作したいな。夏だし。
櫛比する古いトタン屋根の家が、けっこう残ってる。「三茶の三角地帯」名物、千代の湯の白い煙突も見える。ジオラマに、銭湯は欠かせない。
植栽は、難しそう。部品で売ってる樹木は、リアリティがない。洗濯物やブルーシートは、どうやって作ればいい?
このキャロットタワーの低層階は、世田谷区の「生活工房」が入ってる。文化イベントや展示会をやってる。
「レイ・リケット バッグ展」。「バッグ、オーライ」とキャチフレーズにあるから、すかしたコンセプトじゃありません。
女のイノチ、ハンドバッグ。なれども、「お笑いで作ってもいいじゃないか」と、妄想を駆使してジオラマふうバッグを作る。どんどん作る。
もちろん、手芸ふうなのもあった。感心したのは、「たこバッグ」。赤布使用。足もあって、うねってる。イボをどう作ったと思います? 白ボタンを、赤糸で放射状に止める。うまいねぇ。ほんとにイボだよ。
「レイ・リケットさんって、どこの国の人なんですか?」と区の職員に訊く。
笑顔で応えていわく「秘密なんだけど、秘密じゃないんです」。日本女子だった。シンナリすることがイヤなんだろう。工作女子の、元気モリモリバッグだった。
小野リサ。