ロッカーには、無駄な物は一つもない
NHK「ドキュメント72時間」で、大阪・西成のロッカー店が出てた。全国区の呼び名でいえば釜ヶ崎。
学生時代の貧乏旅行で数日間、ベッドハウスに寝泊まりした。回りはオヤジばかりだったが、怖さはない。当方若いから、相手にされなかったんだろう。
自分がオヤジになって見ると、御同輩ばかりだから声をかけたくなる。タイトルは「貸しロッカーブルース」。
ベッドハウス、つまり旅館だから身の回り品は持って出なければいけない。彼らは旅行してるんじゃない、日雇い労働をしなければいけない。仕事にあぶれれば、ホームレス。どこかに物を預けなきゃ。
富士屋ロッカーは、ビルまるごとロッカーだらけ。駅の改札口に2〜3あるロッカーの100倍の数。切実な規模。
で、トビラを開けると、もうギュウギュウに荷物が詰まってる。
「釜ヶ崎語彙集」新宿書房刊。編著者は、寺島珠雄さん。アナーキスト詩人だという。ただの詩人じゃいけなかったのか? 釜ヶ崎を243項目に分類して、生態を網羅した。
そこには、腹が立つことばかり。哀しいことだらけ。
ロッカーだから、期限がある。過ぎれば、鍵をこじあける。でも荷物を捨てられず、店主はしぶしぶ保管する。「出所するまで預かってください」ということもあるから。
毎日の日用品、そして季節代わりで使う生活用品。最少限になるまで捨てに捨てて、残った必需品だけのロッカー。
でも、でも捨てられない物もある。元大工、「もう使わないけど」とサビたノミを見せる。本人が語る「運が悪かった」の、運って何なんだろう。
わかっちゃいるけど、やめられなかったんだろう。
若い頃に持ってた健康保険証を持ってる人がいた。本を納めてる人もいた。「魔の山」と「ベニスに死す」。自分が人間であることを確認するものだ。
文字を所有したがるのは、文化・文明。「無人島に持って行きたい本一冊」という本質は、これか?
音も同じ。照れるようにCDを見せてくれた人。ブルックナー「交響曲第9番」。
骨をミシミシさせながら、「今日の現場はつらかった」と腹で聴く。