車谷長吉文学は「クローズアップ現代」

車谷長吉さんを2冊続けて読む。

「漂流物」新潮文庫と、「銭金(ぜにかね)について」朝日新聞社刊。

あまりに「鹽壺の匙(しおつぼのさじ)」が高名だから、これで直木賞を受賞したものと思ってた。これは、三島由紀夫賞受賞。直木賞は「赤目四十八瀧心中未遂」だった。

「漂流物」は、平林たい子賞。「武蔵丸」は、川端康成賞。並べると、文学の賞に「冠らしさ」はどこにあるのか? と頭をひねる。

ただ、立て続けに受賞してるのは、審査員を「この人にはかなわない」とノックアウトしたからだろう。4K。

そうなると、「文学賞の審査員をお願いします」と頼まれる。だいたい、どの新人賞も原稿用紙100枚前後で1000篇以上は来る。その下読み、1つ読むと2000円くれる。

9割りが、小説になってない。

・そもそも、現代の特徴は好奇心・おしゃべり・無関心 by ハイデッガー

・そのために、人間毒を書かねばならぬ。 崇高さ、面白み、なつかしさ & いがらっぽさ、あんぽんたんぶり、哀しさ、奇癖、引け目、しこり、こわばり、不可能性。

結論。9割りは常識人。常識ある人は、非常識にお金を払う。「鹽壺の匙」は、金貸し業の一家眷属に畏敬の念から書いた本。でも、書かれたほうはたまらない。

抗議の嵐。

虚無、絶望、世捨て。さもしさ、あさましさ。変人、マムシ。人をやめないと書けないのが文学という商品なんだ。

「漂流物」の装丁は、車谷とか長吉のハンコ印判。どんなビジュアルよりストレート。「銭金について」は駒井哲郎版画を、仲條正義さんが装丁した。

・毒毛虫 箱に飼ひをる をなごかな

長吉さんは、句もやる。我、毒毛虫なれど、かみさんもいる。このちぐはぐさが、装画に表われていた。

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