身をかがめると見えてくる
前に平凡社新書で「きのこ文学大全」を読んだ。
写真評論の飯沢耕太郎さんが、きのこ愛好家と知ってなごんだ。圧倒的に理屈っぽいのが多い写真評論業界だから、意外でもあった。
ここで、僕がきのこ好きなら「きのこ文学名作選」に進んでいたんだろう。初版3000部、完売だから入手不可能。
「胞子文学名作選」は、「きのこ文学名作選」が好評だったから続編として出版したのだろう。版元は、鎌倉にある「港の人」社。
知られてないことで、とっても有名な出版社。
「胞子文学名作選」と書いてますが、カバーを一見してもタイトルがよくわからなかった。平積みされていても曖昧な表紙。背にいたっては、タイトルが無い。
だから、手にした。
胞子は、存在感のおぼろさで極端な生物だ。かび、羊歯、菌類、藻類、きのこ、苔など。
原始的。睡気。誰にも気付かれない存在。日陰の身。なんとなく病弱っぽい。フワーっと、どこかへ飛んでいく。いつのまにか、地表を覆っている。水分が似合う。
その心象風景に魅せられた20人ほどの日本文学アンソロジー。
松尾芭蕉、小林一茶、宮澤賢治、太宰治、井伏鱒二、金子光晴から、栗本薫、川上弘美、小川洋子、尾崎翠などが並ぶ。
並ぶ、と書いてますが一編ごとに用紙を変え、組版を変え、写真や図版やイラスト中心ページもある。文字のフォントやサイズも変える。筆記体ページもある。
ブックデザインした吉岡秀典さんには、遊び尽くした造本となった。
これだけ多品種の紙を使ったら、再版はむずかしい。いや、「港の人」ならやるかもしれない。