幸せもあると考えたい監督
ガリガリとクルマに張り付いた氷を掻く夫。妻を街の病院に連れて行かなければいけない。
寒さが、ボスニア・ヘルツェゴビナを象徴し、夫婦の窮状を語る。
共産圏だった旧ユーゴスラビア。独裁が終わると、平和は来ないで民族抗争が始まった。ムスリム人とセルビア人とクロアチア人。
わずかに住んでるロマ民族。ジプシーとも呼ばれる。中・東欧に住む移動型民族だった。現在では、定住者も多い。
これが夫婦の境涯。映画「鉄くず拾いの物語」。
ダニス・タノヴィッチ監督は、200万円の予算で9日間で撮影した。「出演者が演技をしないように、1場面は2〜3回までにした」。
夫は、自動車解体してスクラップを売る。そんな稼ぎでは、妻が流産して掻爬手術のお金が出せない。2度、病院に懇願したが、院長が拒否する。
街までの道中に、原子力発電所が白煙をあげている風景。エネルギーは、貧夫婦に何の役もたたないのだ。
親戚の保険証を病院に見せて、なんとか手術を受ける。
術後に待っていたのは薬代と家の電気代。夫は、また自動車解体を始めるのだった。
現実の話の再現ドラマを本人たちが演る。演じることさえない、不器用な夫と穏やかな妻に巣食う貧困。
幸せの一服感で終わる。また明日は寒いけど。