勘違いが、勘違いを呼ぶ

大雪が降った夜に撮った写真。なんとなく、あの人に似てる。

ヒトラーの髪型を模した印象的なデザインの表紙と、ナチスが権力を掌握した1933年にちなんで、19.33ユーロという値段で2012年に発売された、この本

帰ってきたヒトラー河出書房新社刊。

髪質が細く頭皮にペタ〜っと張り付き、かすかな動きでもパラリンっとなってしまう。獅子吼の演説で激しく頭を動かせば、手で上にかきあげ、なでつけなければならなかった。

原著では、その髪型が表紙だった。

日本語版の岩瀬聡さんの装丁では、総統の、も一つのアイコンであるチョビヒゲがプラスされた。

ER IST WIEDER DAと綴られた、チョビヒゲ。

ドイツ語タイトルは「彼が帰ってきた」。1945年に官邸地下壕で自殺したヒトラーが、2011年8月30日午後に目を覚ました。

回りの人から「おたくは、アドルフ・ヒトラーに見えるよ」と言われ、うわさを聞きつけたTV制作プロダクションにスカウトされる。

サインをせがまれ、ユーチューブに出て、アクセスは70万回にのぼり、新聞の一面にも載る。

この風刺小説は、「ドン・キホーテ」の現代版なのでないか。主人公と回りの人々との会話が、どこまでも噛み合ない。いや、会話は成り立っているのに、お互いに違う意味で納得するのだから。

可笑しい。

ドイツ国内では書籍、電子書籍、CDブック合わせて130万部のベストセラーになる。38カ国で翻訳されてる。映画化もされるという。

著者がインタビューに答える。「これまで、彼を一種の怪物と解釈してきた」。ほんとに、そうなのか? 魅力的な人物だから、人々は彼を支持したのではないか?

ナチ礼賛は法律で禁止されてる国で、チャーミングさに笑う。

ひるがえって、同じ敗戦国の日本。シリアスさが、うっとうしい。

Grégory Privat