優しさが威厳になった人

映画「ドストエフスキーと愛に生きる」を見た。

原題は、THE WOMAN WITH THE FIVE ELEPHANTS。5頭の象と生きる女。うまい言い方だよ、5頭の象とは。

大きくて、ゆっくり動く象のごとし。「罪と罰」「カラマーゾフの兄弟」「白痴」「未成年」「悪霊」というドストエフスキー代表作を、彼女はそう呼ぶ。

すでに亡くなった翻訳家、撮影時は84歳のスベトラーナ・ガイヤーさん。

おばあさん映画である。ウクライナへの帰郷映画である。スターリンとナチを市民から見た映画である。

キエフで生まれた文学少女は、お母さんから「ドイツ語ができれば、将来の生活はこまらない」と勉強する。戦争が終わり、ドイツに住んで文豪の翻訳を始める。

生涯をかけていた姿勢にうたれる。翻訳家になる途に、こんな漂流があるなんて想像できなかった。

老後の静かでシンプルな生活。生きることに、「たくさん」はいらない。尊い

だいぶ落ち込む。

上映後、翻訳家の岸本佐知子さん登場。明るい姿勢に救われた。

「ガイヤーさんは、母語を外国語にしてる。これは、翻訳することがほんとに大変なこと」。

そして、自分の仕事に触れる。

「読んで、これは翻訳しなきゃ」と、彼女は動物的・生理的に出版社を口説くらしい。

よく、翻訳は「第2の創作」といわれる。彼女の場合は「原著を、日本語でどのようにプロデュースするか」を心掛けるのだった。

最後、トークイベントのおまけ。

自身が翻訳したリディア・ディビス「ほとんど記憶のない女」を朗読した。

Robben Ford