原稿、最後の砦がある
本のあとがきを読むと、著者から編集者への謝意がよくある。
「すばらしいカバーを仕上げてくれた」と、装丁者へお礼を述べる著者もいる。
断じて触れないのが、校正・校閲者への「お世話になりました」。
言葉の性質には、感情・心性と論理・物性の2つがある。著者は、前者にウェイトがある。後者の目で読むと矛盾がたくさん出て来るのだ。
「本をめぐる物語」角川文庫刊。
誤字・脱字なら、キッパリ赤鉛筆で訂正する。もちろん、この作業すら骨が折れる。
・今その女は、目の前で死んでいる。男は、恐る恐る女の胸に手を伸ばした。白く滑らかな乳房は揉んでみるとまだ柔らかい
ここで、校閲ガールの目は止まる。
死んでるならオッパイを揉むのではなく、首や腕の脈を確認すべきでは? ムラムラ目的エロミステリーを校閲する悩ましさ。
どの分野でもおきること。かくして、疑問の箇所は盛りだくさんに黒鉛筆で指摘される。
最初、「その言い回しは、俺の個性だ」とムッとしても、疑問の海を前にして、著者はだんだん萎えていく。
この負い目があるので、「校閲者さん、ありがとう」と公言できないのだ。