メイキング・オブ・恐怖
問うたのは、映画監督のジョシュア・オッペンハイマー。問われたのは、かつての虐殺者たち。
「あなたがやったことを、もう一度カメラの前でやってみませんか?」と言われて、やるだろうか?
「とんでもない」と断るどころか、彼らは2つ返事でOKした。あの時の虐殺は、すでに国内では不問にされている。起訴されない安心感からか。
「ハーグ条約なんて、クソくらえだ」。
1965年のインドネシアを扱ったドキュメンタリー「アクト・オブ・キリング」。
スカルノ政権下、クーデターを収拾したスハルト陸軍大臣兼陸軍参謀総長が指揮した100万人規模の大虐殺。
という歴史の現場は、実行したのが正規軍じゃない、というところがミソ。民兵という名のやくざ・ならず者集団がやりたい放題だった。
誇らしげに言う「俺たちはプレマン(フリーマン)だ」。
放火、拷問、針金を使って絞殺を再演し、ジョシュア監督はカメラに収める。
「カット、カット、カット」で撮影が終われば、その映像を彼らに見せて、反応をまた撮影する。こういう映画、見たことない。
現在の暮らしも追う。
豪邸ぐらし、土地売買で口利き、商店を巡って「寄付」を強要、選挙に出馬し、仲間集会で気勢をあげる。
べっとりシリアスでノワール。
ところが、どうしてかマヌケなんだ。日常の殺人事件のほうが、まだしも動機があると思えるほどの、天真爛漫さ。
監督は、この「罪のなさ」が人間の悪夢だと気付かせたかったのか。
これから映画を見る若者たちは、どう感じるだろう。