ひとつの時代が終わった人々

かかりつけの歯医者は、前住所の用賀にある。

予約時間に行くと、先客で混んでいた。熱帯魚を見続ける。熱帯魚って、金持ちの趣味だよなぁ。

飽きてラックを見ると「カメラがとらえた昭和巨人伝」洋泉社MOOK刊があった。

東条英機は、それまでの官舎ぐらしから昭和15年に用賀に引っ越した。パールハーバー前、陸軍大臣が建てた15坪の家。

敗戦後、進駐軍が捜索に来てあまりの小ささに驚いた。

「どうぞぉ」と声がかかって、治療に入る。チッ、他ページも読みたかったのにぃ。

歯医者さんは、先代から開業している。

「戦後に始めたんで、親父が東条英機の治療をしたことはありません」。かつて、彼の家があったことで有名な用賀なのだ。エピソードが聞けなくて残念。

「カメラが〜」を、全ページ改めて見る。

すべてモノクロ。ほとんどの写真は新聞社・通信社・出版社名がクレジットされている。名前のないカメラマンが対峙した、中年・晩年時の巨人たち。

ポートレイトには、本人の了解がいる。自然な感じといっても、作為がある。撮るほうも、撮られるほうも。

しかし、時代だけは作為できない。生前・少年・青年・中年時代を過ごした僕は昭和人。

そういえば小学校の同級生、館野君ちは歯医者で熱帯魚、ラジコン、テレビがあったな。昭和30年代は、金持ちの家しか持てなかったもの。

用賀の歯医者さんは30年代生まれ。熱帯魚を受け継ぐ。

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