架空国のノスタルジー

スクリーンが座席中央にないミニシアターは、かつて銀座にもあった。新宿シネマカリテは、それを事前に説明する。

チケットと一緒に紙片もくれる。

読むと、映写機の位置が低いので、座席移動する時に身をかがめという案内。人影が写り込んじゃうから。小学校の体育館でやる映写会では、必ず立つ奴がいた。

グランド・ブタペスト・ホテル」。

映画のジャンルにある、グランドホテルもの。現在どれだけ大きなホテルがあっても、グランドホテルとは言わない。

戦前期までの、富豪・貴族が泊まるホテル。背丈ほどあるヴィトンの旅行カバンを、ロビーボーイが運ぶようなホテル。

その時代と1960年代と現代をピョンピョン飛びながらコミカルな謎解きが進む。

ウェス・アンダーソン監督は、20代ではないだろう。しかし、映画学生のように小さなエピソードを積み上げていく手法が、おしゃれでかわいい。

・使いたいインスピレーションがたくさんあるんだ

映画館のロビーにあるボードには、雑誌や新聞の切り抜きが貼ってある。

ツヴァイクの作品のような映画を撮りたいと思ったのが、最初なんだ

ユダヤ系亡命作家、シュテファン・ツヴァイク。古き佳き時代の伝記作家。監督がグランドホテルものを撮った理由がわかった。

ロケ場所にヨーロッパ中のホテルを探し、見つけたのは使われなくなったドイツ・ドレスデンのデパート。

映画は、この建物が主役なんじゃないか。

R・シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら