でっちあげに、ひっかかる
1835年夏。
ニューヨーク市民は76年周期で地球に接近するハレー彗星がまもなく見られると関心を集めていた。興奮してた。
折りも折り、
一部6セントと高額だった新聞に、1セントと価格破壊で業界に乗り込んできた新聞があった。ペニー・ペーパーの元祖「サン」紙。
編集主幹は、イギリスの科学雑誌をペラペラめくっていると、月の生物の記事が目にとまる。
販売部数を増やし、我が筆名を高めるために「月面にヒトコウモリが発見された」と記事にするのに時間はかからなかった。
「トップ記事は、月に人類発見!」柏書房刊。
進むのを惜しみながら、ちょびちょび1ヶ月かけて読んだ。
著者のマシュー・グッドマンは1835年夏を水平に拓いて、この与太話に関係した人々を追いかける。
興行師であり、サーカス王でもあったバーナムが出てくる。ミステリー小説の父、エドガー・アラン・ポーが出てくる。
原題は「太陽と月 でっちあげ屋、興行師、決闘する新聞記者、月に暮らすコウモリ人間、19世紀ニューヨークのびっくり仰天の実話」。
癖が強すぎる人間たちの、野心の坩堝。とことん知恵を絞る。現代ならグーグルとアップルとアマゾンの死闘のようなものか。
記事も、ロビンソン・クルーソーやガリバー旅行記のように、初めからフィクションとすれば、なんの問題もなかった。
ノンフィクション・ノベルという手もあったろう。もっとも、当時はそんな高度なメディア・リテラシーは無かったが。
嘘話がばれるのも早く、だまされた読者の怒るまいことか。
つくり話で人をかつぐって、おもしろい。それにしても、どうやって調べたのか。
市の歴史協会、公共図書館、博物館、大学図書館、議会図書館、公文書館に日参していた。
巻末に、参考文献と原註が32ページにわたってリストアップしてある。ちなみに、本文は460ページと厚い。