寓話を翻訳芸人で読む
ベンチで一休みしていると、前は植栽だった。どこからか、カミキリムシがやって来た。
これ、より新鮮な葉を求めて動き回っているのだろうか。お気に入りの味が見つかるまで、長い触覚と手足を忙しく動かす。
「葉っぱは逃げないから、少し落ち着けよ」。
足を踏み外して、体が倒立した。
ある朝目覚めると巨大な虫になっていた男の話といえば、カフカ「変身」。あらゆるメタモルフォーゼ物語の、常にセンターにある。
より忘れないのは、カフカ自身の顔でしょ。
射すくめるような目、とがった頬、大きな耳。当然、体は瘦せ形。歩く神経のよう。
就職先は、労働者傷害保険協会。現場で事故があると、査定をして保険金を支払う仕事。でも、実家にパラサイト&シングルしていたのは、心おきなく小説を書きたいから。
池内紀さんの翻訳でなければ読まなかった。落語のご隠居のように、話が芸になってる。
カフカが見た目神経質だから、内容もというのは誤解だ。童話に通じるものがある。冒険譚、神話、動物文学、ミステリー風なのもある。
先入観と全然違う。
一番は「断食芸人」。黒いトリコット地のタイツをはいて、藁の上にすわっているだけ。顔は蒼白く肋骨が浮き立つ。
目をなかば閉じ、じっと前を見つめ、見物人から質問があれば微笑で答える。大いにうけた。
でも、それは何十年も前の話。各地を巡回しても白い目を向けられるだけ。サーカスと契約しても、監督は「いいかげんにしろ」と怒鳴るだけ。
「つまり、わたしは自分に合った食べ物を見つけることができなかった」。とたんに、息が絶えた。
残っちゃうでしょ、考えちゃうでしょ? これが、正調カフカ節かもしれない。
カミキリムシは、大食い芸人になれる。
Marcello: Concierto en Re m para oboe y orquesta. Lucas Macías (oboe). Camerata Aragón.