機上で夜を明かす

この本、飛行場にある書店には必ず置いてあるでしょう。

「夜間飛行」光文社古典翻訳文庫刊。

飛行場には免税店もある。化粧品売り場には、ゲラン社の香水「夜間飛行」VOL DE NUITが売られてるかもしれない。

翻訳したのが二木麻里さんだから、解説にも女性ならではの一口メモが入る。

小説タイトルからインスピレーションをもらって、これほどセクシーな商品名は他にない。

読みながら、ハンフリー・ボガードの映画「カサブランカ」を思い出してた。男たち、夜、ヨーロッパから遠い僻地、飛行場。

第1次大戦が終了し、あふれたパイロットと整備員は航空ビジネスを始める。旅客輸送ではなく、まだ貨物輸送。それも小口の郵便。

航路を開かねばならない。最初はヨーロッパと植民地アフリカ間。その延長に南米へ。

サン=テグジュペリは、その仕事に参加したパイロットの1人。地上・天空を日常的に見る人類が誕生した。詩的感興がわくだろう。

同時に、闇の中の暴風雨とも闘う。大気変動の情報が無く、気合いで乗り越えなければならなかった時代。

ヨーロッパ行き荷物の、南米拠点はブエノスアイレス。午前2時には、離陸する。

それに間に合うように、パラグアイ・チリ・パタゴニアの3地方から郵便機が到着する予定。

チリ便は来た。パラグアイ便は来た。

パタゴニア便の失踪は、地上管制の燃料計算で簡素に語られるだけというところが、サン=テグジュペリの内気さなのだろう。

ジリ・ヴァンソン