中高年の夢「トロイの木馬」

こう酷暑が続くと、満員電車の中で「すまじきものは、宮づかえ」と嘆きが聞こえきそうだ。

とりわけ、50代のお父さん族。

子どもの進学、家のローン、土偶のような妻。「あんなバカ部長なんか無視したい」勤め先。

我慢お父さんの一念、定年後の輝ける星がある、伊能忠敬

金融・酒造・輸送など手広い事業を捨てて、全国の測量に旅立ったのが、55歳の時。

西洋にも輝ける星はいる。シュリーマン

商社を経営し、クリミア戦争では武器の密輸で大もうけ。1870年48歳の時に、ホメロス著「イリアス」に出てくる古城トロイアを発掘し始める。

トロイアの真実」山川出版社刊。

著者の大村幸弘さんのような考古学者に言わせれば、トルコとはアナトリア高原の国名でしかない。カッパドキアが有名なれど、アナトリア全域に遺跡が眠るのだ。

各地を発掘調査中、シュリーマン著「古代への情熱」を何度も読み返していた大村さん。

ダーダネルス海峡の南西ヒサルルックをトロイアと見定めて、やみくもに(あるいは、でたらめに)掘り返したシュリーマン

1870年は考古学の黎明期。

現代では、新しい年代順に地層が分かれることがわかっている考古学。文化編年上、そこがトロイアである確証は無い。

オスマン帝国 → ビザンツ帝国 → ローマ時代 → ヘレニズム時代 → 鉄器時代 → 青銅器時代 → 石器時代

ヒサルルックの遺丘は、細かく分ければ11もの地層がある。

彼が発見したのは前期青銅器時代の遺跡で、トロイア戦争より千年も古いものだった。

とはいえ、

紀元前1250年頃のトロイア戦争叙事詩イリアス」を、「神話でなく真実だ」としたシュリーマンの執念が無ければ、アナトリア考古学も50年は遅れたか。

50代のお父さん族、大志を抱こう。

ムソルグスキー:交響詩 《はげ山の一夜》