偶然じゃいけないのか

文春文庫刊の「異邦人」があった。

著作権上、本のタイトルとして問題ないのだろうか。保護期間は死後50年。調べたら、アルベール・カミュは1960年に亡くなっているから、セーフなのか。

パラパラめくる。

上原善広さんのノンフィクション。著者は、被差別部落の出自だった。それなら、異邦感は骨身にしみているだろう。辺境の地で、同胞感をさがす旅に出る。

その前に本家「異邦人」を、まず読まねば。カミュのは新潮文庫刊だった。

出だし一行目は、もっとも知られた本ランキングでベスト10に入る。

・きょう、ママンが死んだ。

続いて踏み込む。

・もしかすると、昨日かもしれないが、私にはわからない。

不条理という言葉を世界に知らしめた、このウロンな心情が、すべてを物語っていた。

今、朝日新聞連載中の漱石の「心」に構成が似てる。2部構成で、1部は行動描写篇、2部は心情吐露篇だ。

違うのは、パラグラフ。

カミュは、アルジェリアの太陽に抗して生きる男を描くので短い。石の言葉。対して漱石は、湿り気たっぷりに、しんなりじっとり説明する。畳の言葉。

わかりやすさは、人との付き合いでポイントだ。わかりやすさを演じる。商売にも不可欠。ところが、

主人公ムルソーは、ママンに死なれた。翌日には、かつて一緒に仕事をしたマリイとセックスする。アラビア人をピストルで殺す。

そして、第2部。法廷でことごとく「ひとでなし」と指弾される。検事に無理矢理言わされた動機が「太陽のせい」だから。

因果関係が結びつかないのは、世間ではわかりにくいのだ。インガなヨノナカ。

今の新入社員を称して、つかみどころの無さで「さとり世代」とか言うでしょ。説明になってなくて、くだらないよ。

Sun Ra Arkestra - Face the Music / Space is the Place