政治は理屈より情動
31日から、池袋のジュンク堂で「柴田元幸書店」が始まる。書店の中に、翻訳家の柴田さん推薦本が並ぶ。絵になる。
これが、政治家の「書店」だったらキャンペーンになるだろうか? どの顔を浮かべても、利権につながる会社の総務部社員しか出向かないだろう。
もともと、政治は行動だから読書するのはスタッフ。読むと、決断ができない。
では、独裁者ならどうか? 毛沢東、スターリン。ここは、ヒトラーでしょう。
「ヒトラーの秘密図書館」文春文庫刊。
ティモシー・ライバックは歴史を研究している。古文書を読み解くように、アメリカ議会図書館に収蔵されている1200冊の独裁者の蔵書を検分した。
普通、本は読み手主体の価値で語られる。著者の姿勢は逆で、本から所蔵者を探る。本の中にヒトラーがいるのだ。
さえない小官吏の息子、学歴コンプレックス、断たれた芸術家への道。さまよう魂は、自己に向かわず社会への復讐に活路を見つける。読書で。
どうしても、自分に都合のいい本をむさぼり読むアドルフ。
わが意を得たりとする文にアンダーラインを引き、強調マークを書き込む。
発行年から、著者から、版型から、装幀から、紙質から、蔵書票から、献辞の主からと、書誌学からも調べる。
世界を席巻した源に、軍事年鑑と人種差別の「とんでも本
」とオカルト本があった。
それだけじゃない。シェイクピアに心酔した。自動車王ヘンリー・フォードから教わった。フーシェからも勉強した。
男なら、一度は夢中になる。脳内妄想を現実に実行したから、未だに世界は彼の謎解きに飽きない。
あらゆる悪のイメージを、すべて引き受けている巨大さには、イプセンが戯曲で描いた夢見る男「ペールギュント」も。裾野は広い。