気付かないほど、徐々に

セルバンテス文化センターから、「フリオ・コルタサル生誕100周年」の案内が来た。

誰?

ベルギー生まれ、4歳で両親の母国アルゼンチンに引っ越しブエノスアイレスで育つ。37歳でパリ留学。以降、帰国せず。

フランスで発表した小説「悪魔の涎」を、イタリアのミケランジェロ・アントニオーニ監督が映画化したのが「欲望」。ここで、我が回路に結びつく。

僕の兄貴世代、とりわけ大人たちから「何、考えてんだか」とヒンシュクを買っていた若者は、「欲望」に熱狂した。熱に浮かされてイタリアに渡り、永住しちゃったのもいる。

1960年代だから、僕は子ども心にショックだった。

読んでみました。フリオ・コルタサルの「南部高速道路」河出書房新社刊。

池澤夏樹さんが個人編集した、世界文学全集の短篇コレクション1からの一篇。実際は、何年に発表したものなのか? 60年代か?

日曜の午後、首都に向かう高速道路の全車線は3メートル進んで停車を繰り返す。前方も後方も、クルマの海。最初は、背中を伸ばすためにドアを開ける。

ありふれた出来事。

それでもなかなか、渋滞が解消されなかったら? 一晩が明ける。

ラジオが解消対策を放送しても、ほとんど進まなかったら? 1週間が過ぎる。不安な亀裂が、徐々に広がり始める。

強い日射しはとうに過ぎて、雪が降り毛布が必要な季節になる。この狂気をはらんだサスペンス。

「それから10年経って」なんて安易は文章でなく、短篇で、これほど時間が高速回転していく小説はめずらしい。

「欲望」の音を担当したのは、ハービー・ハンコックだった。