「有名」に、新たに挑む

舞姫シルヴィ・ギエムが来年に引退するという。さよなら公演は、日本で12月にやるらしい。

名前で客を呼べる人。

ということは、客の4分の3は普段バレエを見慣れない人だろう。僕も、そんなに見ない。

マシュー・ボーン演出・振付「白鳥の湖」は2回目だ。数年前に見た時は「男が白鳥を踊る?」と違和感があった。「白鳥の湖」ほど、女のバレエはない思っていたから。

チャイコフスキーの曲も。

ところが、演出・振付が斬新で女のものとは全然ちがう。別のものになっていた。有名な曲に寄りかからない。試行錯誤をして完成させたマシュー・ボーン

幕間にプログラム売り場に寄る。

「今回のスワンは、前の人と同じなんですか?」と訊く。売り子はハテナ?という顔をする。

横にいたおばさんが教えてくれた。

「2年前の公演は、アダム・クーパーです」。今回はトリプルキャストで、僕が見たのはジョナサン・オリヴィエというダンサーだった。

おばさんが見たかったのは、マルセロ・ゴメスというブラジル人プリンシパルなのだ。劇場は、事前に出演者を発表しないので、目当てを見られるかは運次第。

ちょっと、いじわるじゃないかい。

それでは男衆、スワンのポーズやってみよう。

片腕は、後方に水平に上げる。もう片腕は、肘を上にして掌は後頭部に持ってくる。これでスワンが出来上がる。かみさんが寝静まったら、練習してみましょう。

「このシアター・オーブは、11月に『雨に唄えば』をやるんです。主演がアダム・クーパー」。なんでも知ってるおばさん。

雨に唄えば」といえば、ジーン・ケリーでしょう。これまた、すでにイメージが確立していることに挑戦するのだから、完成度が問われる。

まったく違うものを見せないと、小さなほころびが即破滅になる。

たいへんなプレッシャーだろう。