旅する穴の後をつける

ドーナツを揚げているのを、見たことありますか?

味が増えた。ボリュームも、パンと思えるほどのものもある。

不思議な形といえば、カタチ。生地に満遍なく熱を通すなら、別に1本の棒状でもいいはずだ。リングにしたので、穴ができた。

すると、穴が想像力をかきたてる。穴で遊ぶ人も出てくる。

「あなのはなし」偕成社刊。チェコミラン・マラリークは、穴で物語を書いた。それに絵を付けたのは、二見正見さん。

・むかし、あるところに、あかい くつしたが ありました。

赤い靴下にできた穴を、だれも気付かない。穴は、どんどん大きくなる。

しまいにゃ、穴は靴下を飲み込んじゃった。穴は部屋でおとなしくせず、退屈まぎれにドアを開けて外に出た。

歩く、穴。

常識を裏返すところが、落語「頭山(あたまやま)」と同じだ。自分の頭のテッペンにできた池に、身投げする男の話。終わり方、あっけにとられる。

ミラン・マラリークの穴は、歩いているとドーナツに出会う。カエルに出会う。ツバメに会って、ヒツジに会う。

皆んなで森の小屋で寝ていると、オオカミが来て全員を食べる。

ところが、

今度はオオカミの腹に穴が開いた。皆んな出てきた。穴はどんどん大きくなって、反対にオオカミを飲み込んじゃった。

オオカミのサイズに膨らんだ穴は、なにごとも無かったように、皆んなと旅を続けるのだった。

おしまい。

穴は、虚空だ。ガタガタ騒がず、泰然と何食わぬ顔して何でも飲み込む。

★旅する目玉 コチャエのデザイン 

♪旅する鼓膜 Ludovico Einaudi - Una Mattina