カタルシスの無かった清張
「これ、百恵ちゃんですか?」「だと思います」。
居酒屋に百恵ちゃんの曲が流れる。
「当店のおすすめ 大盛★貝盛り合わせ」。そうです、忘年会・新年会のアピール。年末の慌ただしさ前の静けさ。
年末といえば忠臣蔵。赤穂浪士は本懐を遂げたから、鬱屈が浄化される。浅野内匠頭の切腹で、ストーリーが終わったら・・・・。
作家はデビュー作に向かって死を迎える、と言われる。功なり名を遂げても、晩年の清張に安楽は遠かった。
42歳で「西郷札」が直木賞候補、44歳「或る『小倉日記』伝」で芥川賞受賞。そして昭和30年代からベストセラーを連発していたのに。
「増上寺刃傷」はデビュー当時の時代小説を集めたもの。
30代までが、無念・屈辱・猜疑・愚痴・ねたみを圧縮した境涯であったと、告白するような短篇集。以降、失意を偏執的に書き続けた。
読後に本懐を遂げる清々しさは無く、閉塞感が「いかにも日本」と思っていたら違った。
国際文化会館で清華大学の王 成 さんの講演があった。中国では村上春樹が人気だが、松本清張も劣らず読まれてる。
組織を語って儒学的倫理を暗黙知にすると、陰湿な男のいじめがまかり通る。プライドという名前の怨嗟・嫉妬。
聴いた曲ではなかったので、再度居酒屋の店員に尋ねる。
「何ていう曲ですか?」
「さあ、今まで百恵ちゃんに詳しいのがいたんですが」。
★旅する目玉 保井智貴さんの彫刻