跳ばない蛙に理由があった
有名ではあるが、まったく読んだことがない作家はたくさんいる。
「トム・ソーヤーの冒険」のマーク・トウェインなんか、代表例だろう。今回も、訳者が柴田元幸さんでなければスルーしてた。
代表作以外にも、短篇を量産していたトウェイン。始まりは印刷工から。記者になったが、報道するというよりどれだけ面白く書くかを工夫するタイプ。
後年ユーモア作家という評価で、アメリカ文学の一翼を担う。
・構成のしっかりした短篇小説が「落選」し、ほら話・与太話のたぐいが多く集まることになった。
誰にも「俺のトウェイン」を並べてみたいと編集意欲をそそるらしく、柴田さんが選んだ短編集が「ジム・スマイリーの跳び蛙」新潮文庫刊だ。
面白くもなんともない、という顔をして語り始められる物語の数々。
・語り手は、入念にさりげなく、どうでもよさげにオチをぽろっと、自分でもそれがオチだと知らない調子で口にする。
これは本の中で唯一、小説ではなくエッセイ「物語の語り方」から。
表題の「ジム・スマイリーの跳び蛙」も、とぼけた話だ。この、とぼけを出すのがとても難しい。
人を観察するベースが無ければできない技。
・やってみると、これほど厄介で、煩わしい、不確かなものもないことがわかるだろう。
ユーモアを産み出す資質は、シリアスだ。
★旅する目玉 田島直樹さんの版画
♪旅する鼓膜 第452回 あ、安部礼司、