お約束は、まだ健在だった

お正月の新聞は、旅行会社の広告が満載だった。

船旅もたくさん載ってた。出発はいつなのか、細かい文字をたどると11月12月とあった。ほぼ1年後の旅を、正月から案内する。

この気の長さは、クルーズが年寄り向けの商品だからか。

横浜大桟橋から「ぱしふぃっくびいなす」号が出発する風景を見に行く。

望遠レンズに映る旅客は、確かに60代以上が横一線に並んでいた。目的は、老人ではなくテープが舞う景色。

お約束は、はたして今でもやっているのか?

船長の挨拶があり、赤いユニフォームの横浜市消防音楽隊がマーチやダンス音楽を奏でる。

フリオ・イグレシアスの曲も。ディナーコンサートで「今宵、奥様をお借りします」と、おば様をその気にさせる天才アーティスト。

盛り立てるねぇ。

歓送迎デッキには、予想より人が集まってた。

「世界一周って、何ヶ月かかるんでしょう?」

「3ヶ月くらいかな? 100日かかるとも言いますね」。

ということは、桜の季節に横浜に帰るってことだ。

で、亭主は100日間朝昼晩に老妻と付き合うのだろうか? まじで? 逃げ場が無い地獄だろう。

無人島に持っていく1冊の本は?」と、お約束のアンケートを思い出した。世界一周の船旅に置き換えてもいい。本に逃げるしかないでしょう、ここは。

本居宣長新潮文庫小林秀雄さんの大作。宣長といえば桜の歌。

・敷島の 大和心を 人問はば 
朝日に匂ふ 山桜花

上巻400ページの内、130ページまで宣長の勉強の姿勢を語る。

・詮(せn)ずるところ、学問は、ただ年月長く、倦(うま)ず、おこたらずして、はげみつとむるぞ肝要

小林秀雄さんは、宣長を倦ずおこたらずに勉強した過程を語るから臨場感がある。

ところが、出ている人・本がわからない。わかろうとしても、船旅じゃ入手できないだろう。クルーズには不向きの本なんだ。

130ページからは、宣長の代名詞「もののあはれ」の説明が始まる。情趣のこと。

・用例は、「土佐日記」まで遡(さかのぼ)る。

いよいよもって、船の売店では売ってないだろう。

★旅する目玉 濱田富貴さんの銅版画

♪旅する鼓膜 [https://www.youtube.com/watch?v=jsfdv0ebsNA&list=RDjsfdv0ebsNA&index=1:title=Native american shamanic music mix to meditate and relax - by Morpheus
]