福島屋 福島徹

六本木一丁目は、森一族野望のビル・マンション群で辺りを睥睨している。

一族は徳川家康に似て、とにかく忍耐深く地上げをする。計画では、さらに広い地所だったかもしれないが、完成した暁は貧乏くさくない。

汐留地区の無計画さに比べれば、なんぼかマシ。

さて、六本木一丁目駅の改札から地上に出る地下道に、スーパーの福島屋があった。

ディーン&デルーカは、お洒落過ぎて男が入るにはこっ恥ずかしい。福島屋はそこまでいかないが、スーパーの語感からは遠い。

調理をガラス越しに見られる。これデパートでもある。買う気にさせる手法。

入り口に、料理講座の紙が下がっていた。ワイン、総菜、食材別など盛りだくさん。1000円とあるから、材料代+光熱費程度だろうか。

福島屋 毎日通いたくなるスーパーの秘密」日本実業出版社刊も店頭にあった。

出版社というのは、どこからネタを仕入れるのか不思議なくらいウォッチングしているのだ。

羽村市で創業したよろず屋の2代目が、現社長の福島徹さん。羽村を地図で探す。立川から青梅線に乗って8個目の駅。

都心の一駅間とは違うから、人影がまばら。よく開業したね。

学校を卒業して銀行から借金。1円でも安くを心掛け、その内に顔が土気色になる。客から「お前の顔が気に入らない」とまで言われる。

必死なのに、冴えない顔相。

売り場のたたずまいも同様。それからですよ、商品の文脈で棚作りを工夫するようになったのは。

個別の商品も、客が「これは何?」と感じるなら少し説明を添えたほうがいいとPOPを出す。

見た目のグラフィック・ワークショップを、店員同士で始めるようになる。

一人の踏ん張りより、皆んなの「ちょっとアイデア」。すると空気も変わってくるんだね。

通常のスーパーは、売れ残り商品を棚の前面に出して売る。福島屋は、表示して値引きする。これ、「良心の見える化」になる。

六本木一丁目住民は、億ションに住む。それでも値引きは響くだろう。